記者は見た!ネズミ対策先進都市の東京千代田区で体長20cmの巨大ドブネズミを捕獲

子猫ほどもあろうかと思える巨大ネズミ。籠から鼻先を出してチューチューと鳴いている(C)日刊ゲンダイ

【話題の現場 突撃ルポ】#11

「千代田区は先進的なネズミ対策を行っている」。昨年末、新宿区のネズミ対策を取材した記者が駆除業界関係者からよく耳にした言葉だ。

千代田区は、2023年から3年かけてネズミ対策を行っていくことを発表。毎年約1600万円の予算を計上し、全国に先駆けて長期的な対策を講じている。また、今年1月には、ネズミが嫌うハーブの香りが練り込まれたゴミ袋を一部地域で実証実験するなど、ユニークな取り組みも行っている。

■苦情が急増チュー!

ところが、同区に寄せられた苦情件数は、22年の203件から、23年には402件と急増チュー。

先進的な対策が進んでいる一方で、なぜか苦情の声も大きくなっているのだ。ネズミ対策の最前線で何が起きているのか。捕獲調査現場に同行した。

5月×日午後3時30分。集合場所は千代田区某所の繁華街のコインパーキング。待っていると白い車体に「株式会社シー・アイ・シー」と、社名のロゴが入ったバンが到着した。区からの委託でネズミ対策事業を行う有害生物駆除業者だ。

今回の目的は、生息状況調査。飲食店の近辺を中心に苦情が多数寄せられていたため、今年1~3月に一斉駆除を実施した。3カ月経過した今、その効果を検証するために今回の調査が行われたのだ。ドブネズミは夜行性であるため、前日の夕方に仕掛けを設置して翌日昼に回収する。

前日に設置した仕掛けのポイントが記されているマップを見せてもらうと、赤いシールでびっしりと埋め尽くされており、仰天。それもそのはず、約300メートル四方の区画に仕掛けを50個も設置していたのだ。

飲食店のゴミ捨て場付近や、低木の街路樹の下などから一つ一つ仕掛けを回収していくが、どれも空。肩幅ほどもない住宅と住宅の狭い隙間の奥に男性作業員が入っていく様子を見ながら、ネズミ対策の苦労に思いを馳せていると、戻ってきた手に握られた籠がガシャガシャ揺れている!

いた! 体長約20センチのおとなのドブネズミだ。ネズミというより、サイズは子猫ほどもあろうか。「出してくれ!」と叫ぶ囚人のように、籠の鉄格子から鼻先を出して、チューチューと悲しげに鳴いていた。一見、ネズミがいそうもない奇麗な住宅の裏も活動範囲となっていたのだ……。

対策課長は「まるでゾンビ」

結果、この日、捕獲されたのは50個の仕掛け中、わずか3匹。一斉駆除の効果が無事証明され、めでたしめでたし……と思っていたところ、後日、取材を行った千代田区保健所生活衛生課長・市川健介さんは「まだまだネズミとの戦いは続きます」と言い、こう続けた。

「前回の一斉駆除は3カ月かけて、殺鼠剤の使用から捕獲、そして地中の巣穴の退治まで、徹底して行いました。それでも、3カ月後には再び現れる。まるでゾンビですよ」

ネズミ対策の難しさと同時に、戦いへの強い覚悟を感じる。しかし、現場で3匹しか捕獲されていないにもかかわらず苦情が倍増しているのは、不可解ではないだろうか。

「苦情件数の倍増は、ネズミの増加を意味するのではなく、住民のネズミへの関心が高まった結果だと分析しています。生息調査でも減少傾向にありますが、満足して放置してしまったら、まさに“ネズミ算”で増えてしまう。住民の方の協力を得て環境全体を改善していく必要があります。え、私がネズミだったら? うーん、まだ千代田区には住み続けますかね」

現場と同区の徹底ぶりを垣間見た今、もしネズミだったらと思うと、臆病者の記者はすぐにでも逃げ出したい。

(取材・文=橋爪健太/日刊ゲンダイ)

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