タダで食える? 有名回転寿司バイトの賄いで寿司にありつこうと思ったが…【65歳アルバイトの現実】

1年中募集をかけているという(写真はイメージ)

【65歳アルバイトの現実】#22

回転寿司編

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「林山さん、今度はお寿司屋さんで働いたらどうですか? お寿司をたらふく食べられますよ」──。知人のN女史からこう勧められ、学生時代を思い出した。当時バイトをしていた定食屋は無料の賄いつきで、思う存分食べさせてくれた。すでに65歳。食欲は減退したが、寿司をタダで食べられるのは魅力だ。というわけで有名回転寿司チェーンの面接を受けた。

店の裏口から入ると、狭い控室にエキゾチックな顔立ちの女性が並んでいる。ネパールとベトナムの出身者だそうだ。

控室には「ピッポ、ピッポ」という音が木魚のようにこだましている。この音に合わせて手指を洗うのがルールで、手の表と裏、指の股など10種類の洗い方をすべてやる。面接者の私も店のスタッフから「音に合わせてやってください」と言われ、入念な手洗いをさせられた。

面接官は店長の秋吉氏(仮名)。「わざわざ、お越しいただき、ありがとうございます」と丁寧に挨拶をしたあと「年末年始とGWも働けますか?」といきなり本題に入った。「大丈夫です」と答えたが、「お正月などに家族と旅行する人が多いんです。本当に出勤できますか?」と念押しされた。

時給は平日が1300円。土日祝は1350円。接客が中心のホール係と寿司などをつくるキッチン係に分かれ、本人の意向で配属を選べる。ホール係はレジで割引券や優待券、クーポン券に対応。種類が多く煩雑なので覚えるのが大変だという。そこでキッチン係について話を聞いた。

寿司店というと歌の文句みたいに「板場の修業」が必要なのだろうと思うが、秋吉氏は「うちにはプロの寿司職人は一人もいません」ときっぱり。米を炊くのは人間の仕事だが、あとはほとんどをロボットがやる。炊いた米にロボットが酢をまぜ、シャリの形にして皿に盛る。その上に人間がマグロなどのネタをのせ、それをロボットが固めてベルトコンベヤーで運ぶ。

さすがの機械も魚のカットはできないので人間がやるが、それもマニュアルに従って切ればいいのだという。

「魚によって切るべき筋が違い、マニュアル化して厨房の壁に貼ってあります。早い人は3カ月でマスター可能。遅い人は1年くらいかかりますかねぇ。とにかく素人でもできる仕事ですよ」

シャリ係は米を持ち上げたりするが、重量は5キロ程度だから、体への負担は少ない。それでも仕事がきついという人は「だし」の係に回してもらえる。だし係は茶碗蒸しやみそ汁、ラーメンなどを担当する。休憩時間は6時間労働で45分、7時間労働は60分だ。店外のカフェなどで休んでもかまわない。

バイトを含めた従業員の6割以上が外国人で、秋吉氏は「本音は日本人を採用したい。そのほうが安心ですから」。そのため一年中募集をかけている。とくに3、4月はバイト学生が就職で辞めていくので人手不足に陥るそうだ。

さてタダの賄いはあるのか。恐る恐る聞くと「有料です」と宣言されてしまった。ガ~ン。

「お店の商品を食べる場合は仕事が始まる前にお金を払い、客席で食べてもらいます。3割引きで食べられます」

なるほど。いくら回転寿司でもタダで食べられるわけはない。当たり前だ。というわけで、自分の食い意地の悪さを痛感しつつ、面接を終えたのだった。

(林山翔平)

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