【社説】骨太方針原案 財政健全化の道筋見えぬ

 政府の借金である国債発行の残高は約1300兆円に上る。日銀が3月にマイナス金利政策を解除し、「金利のある世界」が戻ってきた。これを減らさなければ利払い費が増え、財政の自由度が大きく損なわれる懸念がある。財政健全化を着実に進めなければならない。

 政府は、経済財政運営の指針「骨太方針」の原案で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を達成する時期を現行の「2025年度」で堅持すると明記した。岸田政権になってからの過去2年は、自民党の積極財政派に配慮して目標明記を見送っていたので復活である。

 背景として、アベノミクスの柱だった異次元緩和の終結に伴う金利の上昇傾向がある。きのうの金融政策決定会合で日銀は、長期金利を抑制するため月間6兆円規模をめどにしている長期国債の購入額を減らす方針を決めた。

 超低金利を前提に、新型コロナウイルス対策などの経費を丼勘定で賄い、歳出構造を水膨れさせてきた「打ち出の小づち」のような発行をやめるのは当然だ。

 プライマリーバランスは、政策の経費を借金に頼らずに税収などでどれだけ賄えるかを示す指標である。25年度の黒字化目標は18年に決めた。

 ことしの原案では、25年度の黒字化が「視野に入る状況にある」と強調した。円安による企業業績の回復や物価高に伴う税収増を見込んでのことだろう。

 仮に収支黒字化が達成できたとしても、それは財政健全化の出発点に過ぎない。今からできる限り借金を増やさないようにしなければ、金利負担で将来の成長を見据えた投資や社会保障、少子化対策などの政策に必要なお金を確保できなくなる恐れがある。

 それなのに、肝心の25年度以降の目標は曖昧だ。原案には本格的な人口減少時代を迎える30年度まで6年間の「経済・財政新生計画」を盛り込んだ。収支黒字化の継続と国内総生産(GDP)比での債務残高の引き下げを目指すとするが、数値目標や歳出改革の具体策は示していない。

 これでは議論の先送りと捉えられても仕方あるまい。「経済再生と財政健全化の両立を前進させる」としているが、その道筋は心もとない。

 何より、無駄遣いにつながるバラマキの発想をやめる必要がある。昨年の骨太方針で「歳出構造を平時に戻す」と強調したはずだった。舌の根も乾かぬうちに、昨秋は物価高対策を柱に13兆円超の大型補正予算を組んだ。財政規律の立て直しは急務である。

 基金や予備費に資金を積んでおき、国会での議論を回避して使い道を決める運営も財政民主主義に反する。すぐに改めてもらいたい。

 財政の悪化が、社会保障などに対する国民の将来不安につながり、個人消費の回復を妨げている面は否めない。これでは安定的な経済成長もおぼつかなくなる。物価高を上回る賃上げの継続とともに、財政健全化も待ったなしと、肝に銘ずるべきだ。

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