命令形がそぐわない

 ある国語の授業で先生が「恋(こ)ふ」(恋い慕う)の命令形は「恋ひよ」だと説明した。生徒の一人が異議を唱えたという。「恋することは誰にも命令できません」。なるほど、命令形が似合わない言葉もある▲「恋ひよ」以上に命令形がそぐわない一語、それは「死ね」だろう。宮崎県川南(かわみなみ)町の町議会本会議で、がんの療養で公務を休んでいる町長について、町議の一人が「早く死んでもらいたいな、と祈りたい気持ちだ」と発言したという▲休んでいても、町長は報酬を受けている。一方、民生委員は無報酬で、その処遇を想像すれば…といった流れでの発言というが、町長の心を言葉で刺したという想像は働かなかったらしい▲遠い町で発せられた言葉の切っ先が痛い。動画サイトで俳優らを中傷し、揚げ句に「つぶす」と脅迫する。選挙演説の声を、拡声器の大声でかき消す…。言葉がたやすく凶器と化す場面が増えたように思えるのは、あながち気のせいでもあるまい▲議会の休憩後、周りの説得もあって町議は謝罪し、発言を撤回した。休憩前は撤回を拒んだというから、本音はうかがい知れない▲言葉ならぬ“言刃(ことば)”を振り回すのがたやすければ、それを撤回、つまり「なしにする」のもたやすい。「心からの」という重みを欠く言葉が列島を飛び交う。(徹)

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