「アンチヒーロー」最終回直前!【プロデューサー・インタビュー】「あとは見て判断してほしい。皆さんがどう受け取るか楽しみです」

TBS系では長谷川博己が主演を務める日曜劇場「アンチヒーロー」が放送中。長谷川が演じるのは、「殺人犯をも無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士・明墨正樹。「弁護士ドラマ」という枠組みを超え、視聴者に“正義とは果たして何なのか?”“世の中の悪とされていることは、本当に悪いことなのか?”を問いかける、前代未聞の逆転パラドックスエンターテインメントだ。

本作を手掛けるのは、「VIVANT」「マイファミリー」「ドラゴン桜2」「義母と娘のブルース」など数々のヒット作品を放ってきた飯田和孝プロデューサー。今回は最終回目前に、このドラマに掛けた思いや、最終話前だからこそ語れる制作裏話を伺った。

3人のカラーを掛け合わせると、ドラマのテーマカラーになる

――日曜劇場という大きな作品を手掛け、撮影を終えて今どんなことを感じていますか?

「一番は、とにかく最終回を見ていただきたいという思いが強いです。世の中に出すものなので、恥ずかしくないものを出さないといけないですし、いろいろな人が関わっているので、頑張るのは当然です。あとは見て判断してほしいです。まだ見ていない人は、第9話までをU-NEXT ParaviコーナーでもTVerでもNetflixでも全部を振り返ってもらって、最終回をリアルタイムで見て欲しいです」

――視聴者の皆さんが考察の中で、名字に色が入っているところも注目されていましたが、意味を持って付けられたのでしょうか?

「2020年に立てた企画書の段階から、色を含ませたいというのはありました。明墨は、分かりやすく黒と白の曖昧な感じ。赤峰は、エネルギーの高い熱い人間。紫ノ宮は、冷静ですが内にみなぎるような思いがある。その3人のカラーを掛け合わせると、ドラマのテーマカラー(至極色)になるので、そこは狙いだったりします。後は、志水の水色、桃瀬の桃色というのは、脚本を作る段階で統一したコンセプトで作りました。最終回は、皆さんそこも期待してくれている部分だと思うので、白木、緑川にも注目していただきたいです」

――色があるということで“戦隊モノ”とも捉えられていますが、そこも意識されていたのでしょうか?

「最初は、考えていませんでしたが、言われて見れば確かに戦隊だなと思いました。大概、戦隊モノは、レッドが真ん中なので、そうなると実は赤峰が主人公なのでは? 逆に敵側のボスなのか?とも捉えられて、そういう考察も面白いですね。脚本の福田哲平さんと最初、白黒はっきりさせることは、法律ではよく併用されることなので、そこに対して遊べると面白いかなと考えていました」

成長や人間の変化みたいなところを絶対に表したかった

――企画の段階で、明墨役は長谷川さんに決めていたとのことですが、撮影をともにしてどんなことを感じていますか?

「長谷川さんは、もうかれこれ1年と3カ月ぐらい、このアンチヒーローの明墨と併走しているので、まずは本当にお疲れ様でしたと言いたいです。後は、あらためて唯一無二の俳優さんだなと思いました。実際に、脚本の段階からキャラクターを作っていく作業を、一緒に監督を交えてやっていく中で、キャラクターを良くしようとするだけではなく、ドラマ全体を面白いものにしようという熱意と、作品に向き合う姿勢、周りを巻き込む力がすごいなと感じて、尊敬の気持ちです」

――赤峰が明墨に似てきたと、視聴者の中でも声が上がっていました。北村さん演じる赤峰の成長や変化などはどのように描いていきましたか?

「脚本を作っている段階では、北村匠海さんがどう演じてくれるのか、ここまで想像できていなかったです。これは完全に、北村さんという俳優が、赤峰をどう作っていくかプランニングした成果だと思います。僕らが想像して書いたものの、何十倍にもして、赤峰という役を作ってくださいました。このドラマを通して、正義という形がだんだん赤峰の中でも変わっていく、成長や人間の変化みたいなところを絶対に表したかった部分でもあります。最終回でそこが分かると思うので、視聴者の皆さんがどう受け取るかも楽しみです」

――最終回で明墨と伊達原の対峙(たいじ)するシーンも注目ポイントかと思います。

「野村萬斎さんの役に対して言うと、そのいわゆる日常劇場の勧善懲悪で倒される敵というよりかは、人間味や悲哀の部分を伊達原という役に込めました。俳優として、萬斎さん出演のドラマや映画、狂言での表現を見て、物悲しさみたいなものをうまく表現していただけるんじゃないかと思い、キャスティングしました。長谷川さんがデビューしたての頃に、萬斎さんが芸術舞台の監督だったり、2人の歴史の長さからか、2人のコミュニケーションを見ていると、言葉を数多く交わすわけではないですが、意思疎通している部分があるなと感じています。2人の掛け合いがうまくシンクロしているのは、過去があってこそなのかなと」

――第9話で白木は、明墨法律事務所の皆を見事に裏切りましたが、「名前に色が付いているので裏切ってはいないんじゃないか」という考察もありました。

「第9話の白木の流れも、最初から考えていたことで、ときどき、意味深な表情をする感じは、嫉妬心がだんだん芽生えてきて、裏切りという形になっています。視聴者の皆さんもたくさん議論してくれていて、裏を読むのがすごいですね。『白木もこれはわざとだよね』という投稿もあり、そこは信じるも信じないも、最終回を楽しんでいただければと思います。また、『これは絶対に作戦だ』『仲間だと信じたい』などの意見があり、“信じたい”ということは、仲間であってほしいということで、キャラクターに対する愛着を持ってくれているなと発見もありました」

主題歌は、最終回もどのタイミングで流すか、すごく議論した

――脚本を作る上で意識した点などはありますか?

「今回に関して言うと、いろいろな案件の中で、最終的にどうひっくり返すかも必要だったので、脚本を4人態勢でさまざまなアイデアを皆で議論しながらできたのは、非常に良かったです。エピソードごとの得意不得意もあり、例えば第9話の冒頭の演説や、最終回の接見室のシーン、法廷の最後の演説は、「七つの会議」や「VIVANT」を手掛けた、福澤克雄監督とよくタックを組んでいる、李正美さんがメインで書いてくれています。ポップな部分は、山本奈奈さんが得意だったり、宮本勇人くんは、仕掛けを構築していくのが上手、福田さんは圧倒的に構成がうまいというところで、制作陣の得意なところをパート分けして作ることができてよかったです」

――パズルのピースをうまく埋めていく中で、難しい部分はありましたか?

「例えば、事件で使われた毒が改ざんしてあり、明墨が検事として事件に加わったのは途中からだったので、明墨ですらそこの改ざんの余地は疑わなかった。その毒にたどり着くところは、桃瀬の日記と手紙と、赤峰と紫ノ宮があそこまで成長してきたからであって、それまでは単純に動画を探すことだけだった。そこが第9話で出てきます。一つの事柄が全部つながってくると、この閉じられた世界のすごく狭い中での話であり、それが都合良すぎるという印象に映ったりするので、その中でパズルをどううまく埋め込んでいくのか難しかったです」

――第9話は、苦戦した回でもあったのでしょうか。

「その第9話で、最初に赤峰がどっさりと書類を、桃瀬の母親からもらってくるところは、明墨も当然たくさん会いに行っていて、それだけ信頼されているんだったら、お母さんはすでに資料を渡していたはずなんですよ。『それって、もっと前から気づいていたでしょ』とツッコミが出てくるところを最大限注意しながら、最終的には、日記を渡す。日記は、相当プライベートなものなので、そのパーソナルなものを渡すというのは、これだけやってくれていて、新たな仲間ができた先生が、自分の娘のために頑張ってくれているという思いからだと、仮説を立てながら作りました。その辺りの視点は、田中監督の指摘によるものです」

――miletさんが歌う主題歌「hanataba」は、ドラマを盛り上げる要素の一つだなと感じています。

「最初の『大嫌い 嘘じゃない』の歌い出しから、ドラマのストーリーにぴったりすぎるぐらいはまったなと思っています。もともとのオーダーとしては、ドラマでは語られていない明墨から紗耶への思いを歌にしてほしいとお願いをしました。miletさんは、まだ第1話では、過去のことが明かされていない段階で、伝えたいけど伝えられない思いや、“小さな希望”という僕の言葉もヒントにして作ってくれたと、おっしゃっていました。その中で、明墨の謝罪の気持ちを『ごめんね』という歌詞が、ドラマのストーリーに乗っかり、一つの作品ができたなと思います。そういった意味でいくと、今回、テーマ曲を担当してくれた梶浦由記さん、寺田志保さんの楽曲も、音楽があるからこそ、このドラマが成り立っているなと。視聴者の方も、毎回どこで主題歌がかかるか、注目してくれていたので、そこもうれしいです。最終回もどのタイミングで流すか、すごく議論したので、そこにも注目して見てください」

――最終回を前に、もう一度見ておくべきシーンはありますか?

「桃瀬は、愛の象徴であって、なんだかんだこのドラマは愛というものが中心にあるのかなと思っています。それは人間が動く以上、愛が一番動機になってくる部分でもあるので、あらためて第9話、10話を見ていただくと、桃瀬はこのドラマの軸になっているなと気付かされます。第9話で、明墨が今まで動いてきた根幹が見えて、それが最後どう締めくくられるのか楽しみにしていてください」

――最後に、最終回の見どころをお願いいたします。

「企画書の表紙に、明墨が志水さんの家族を壊してしまい“その娘の愛を救う物語”ということを書いていました。それは、2020年に最初の企画を立てたのですが、その年の12月に僕に娘が生まれて、そこから付け足した要素だったりするんです。志水と紗耶、倉田と紫ノ宮、それから伊達原と娘の親子の関係性。自分が窮地に立たされた時に、自分自身にとってなにが大切か、その辺の感覚や感情にも注目していただきたいです。6月16日は父の日ということで、親子、家族で見てほしいです。また、岩田さんの最後のラストシーンは、僕がこのドラマで伝えたかった部分でもあるので、そこも見どころです。プチ注目ポイントで言うと、青山さんの奥さんが出てきます(笑)」

【プロフィール】

__飯⽥和孝(いいだ かずたか)
__TBSテレビ・制作局ドラマ制作部所属のテレビドラマのプロデューサーとして活躍。2023年には「VIVANT」にてエランドール賞・プロデューサー賞を受賞。主な担当作に「VIVANT」「マイファミリー」「ドラゴン桜2」「義母と娘のブルース」などがある。

【番組情報】

「アンチヒーロー」
TBS系
日曜 午後9:00~9:54 ※6月16日は午後9:00~10:19

取材・文/N・E(TBS担当)

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