アニメ『怪獣8号』監督「原作の魅力を再現しつつ、アニメならではの見せ方で面白くしていくのが我々の仕事」

宮繁之監督が語るアニメ制作の舞台裏。『怪獣8号』の魅力とこだわり。

架空の話でも、気持ちに嘘がないように。

本作で監督を務めた宮繁之さんに、まずは原作の印象を伺った。

「一番惹かれたのは主人公の日比野カフカというキャラクター。彼の現状は幼い頃に思い描いていた姿とは違ってしまったけれど、怪獣清掃の仕事に誇りを持ち自分の人生にも納得している。それでも幼馴染みのミナが防衛隊員になった姿を見たらやるせなさも感じる。それってリアルな人間の感情だと思うし、それをバトル漫画の中で扱えているのが面白い。だからこそ、我々が作るものは架空のお話ですが、そこにいるキャラクターたちの気持ちには嘘がないようにしたいと思ったんですよね」

登場キャラクターをより生っぽく描き出すのはキャラクターデザイン・総作画監督の西尾鉄也さん。

「アニメ表現として、非常に洗練された絵だと思います。1枚なのに動きを連想できる絵で、見ているだけでワクワクします。しかも、西尾さんが総作監修正を入れたところはイキイキとしているんです。例えば、カフカがあくびをする場面で途中で首を傾けたり、二重あごになってたりするんですが、偶然性が入り込む余地がないアニメの中に、リアルな人のたたずまいをきちんと落とし込んでくださるので、見る度に感動しています」

リアルな人間の物語を構築する上で、声優陣の演技も重要に。

「カフカの『今度はぜってー諦めねぇ!!』といった台詞など、彼らの心の叫びに視聴者が共感するためには、全部が全部デフォルメされたお芝居ではダメで。怒っているときに怒鳴った芝居では、そこに画がついたときに過剰すぎてしまい、一気に対岸の火事のような感覚になってしまう。見る者が入り込むためには、喜怒哀楽の“間”ぐらいの感情を追えていることが大事で、こだわった部分ですね」

本作においては人間をおびやかす怪獣の存在も欠かせない要素。

「前田真宏さんが描いた怪獣は本当に茫洋としていて。例えば、怪獣の真ん丸の目を見ると、この生物とは絶対にわかり合えないと感じる。地震や台風などの自然災害だって、いつどこに、どの規模で起こるかわからないから怖い。そうした得体の知れない恐怖が前田さんの作るものにはあるんです」

プロフェッショナルな精鋭たちが集結し、こだわり抜いて完成した『怪獣8号』。そこには「防衛隊と通ずるものがある」と監督。

「“みんなでいいものを作るんだ”という思いが強い現場で。また、アニメーションは原作をそのままトレースして成立するものではなく、原作の魅力を再現しつつ、アニメならではの見せ方で面白くしていくのが我々の仕事であり、それは原作者の松本直也先生も同じスタンスで柔軟に受け入れてくださった。今回はみんなが立場など関係なく、主張を持って取り組んでいました。でも、固執はしない。無理なら別の方法で面白いものにする。それは、個性も境遇もバラバラだけど、怪獣討伐という同じ使命に向かって進む防衛隊第3部隊と近い気がするんですよね」

アニメ『怪獣8号』 怪獣8号となってしまった日比野カフカが、怪獣を討伐する「日本防衛隊」に入隊するという幼少期からの夢を追い、仲間と共に奮闘する姿を描く。土曜23時~、テレ東系列ほかにて放送中。X(旧Twitter)で全世界リアルタイム配信も。

みや・しげゆき 11月14日生まれ、静岡県出身。2005年、アニメーション監督デビュー。監督作品に『鬼平』『ルパン三世 GREEN vs RED』。ほか『劇場版 TIGER & BUNNY‐The Rising‐』絵コンテなど。

※『anan』2024年6月19号より。取材、文・関川直子 ©防衛隊第3部隊 ©松本直也/集英社

(by anan編集部)

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