オーバーツーリズムとは無縁 山あいの農家民宿が外国人に人気 住民との対話・暮らしを体験地域住民も協力「地域の人と出会える宿に」

山口市をニューヨーク・タイムズの「行くべき52か所」に推薦したクレイグ・モドさんは、観光で大切なことをこんな風に語っています。「地域住民と対話し、文化と深く向き合う」。「オーバーツーリズム」やそれに伴う住民との軋轢。観光と、地域住民との関係が改めて注目されています。

そうした中、住民と話しながら、文化に触れる体験のできる拠点となる民宿が、去年、阿武町にオープンしました。「暮らしの体験」をテーマにした農家民宿の存在は、地域に住む人のやりがいにもつながっています。

記憶に残る「体験」を大切に

「農家民宿 山平」。去年6月、「暮らしの体験」をテーマに阿武町にオープンしました。町の南東部で、盆地を囲むように民家が位置する宇生賀地域にあります。営むのは、田代ゆかさん。2020年から2年間、町の地域おこし協力隊として、暮らしが体験できるプログラムを開発していました。

田代ゆかさん
「自分が体験したこととかだと、においや感覚で記憶が戻るんですよ。何かの拍子に『自然の中って楽しかったよね』というのが、よみがえったらいいなと思って、体験を大切にしています」

客と住民が「ウィンウィン」に

民宿の客は田代さんが作ったプログラムを体験できます。野菜の収穫プログラムでは、地元で育てた旬の野菜を満足いくまで収穫をしてもらおうと、取り放題にしているものもあります。

田代さん
「取り放題っていう形を取ると、農家さんも取らないといけない分を来た方に手伝ってもらう。お互いがウィンウィンであったらいいなっていうのをプログラムを作るときにすごい目指していますね」

プログラムの体験を受け入れるうちに、より長く宇生賀に滞在して多くの体験をしてほしいと考えるようになり、2泊3日を基本とする民宿のオープンを決めました。ツアー参加者のホームステイを受け入れたことで外国人客が増え、平均して月に10人ほどが山平を訪れています。

カナダとイギリスから来訪

この日、山平に滞在するのは、カナダからの夫婦2人とイギリスからの1人のあわせて3人。前日に到着し、2日目は、萩市内の観光です。東光寺を歩き観光を終えると、40分ほどかけて「山平」に戻ります。

外国人客と「山平」は、ホームステイの受け入れを担う「萩市ふるさとツーリズム推進協議会」が結びつけています。

萩市ふるさとツーリズム推進協議会・宮﨑隆秀事務局長
「こういう山平さんのような環境の中で、ローカルエリアの体験であったりとか、生活スタイルっていうのを、皆さんに一緒に体験していただく、というのが私たちの取り組みになります」

ローカルが知的好奇心をくすぐる

英語圏の客を中心に、受け入れる宮﨑さんは、よりリアルな体験を求め、地方を好む人が年々増えていると感じています。

宮﨑さん
「ローカルエリアに入っていくことで、自分たちの国の文化や伝統と違う、いい意味でカルチャーショックを受けていただいているというところで、それが知的好奇心をくすぐっている部分の1つなのかなと感じています」

カナダからの夫婦はこの旅行で、東京や長野を訪れたあと、山口県に来ました。

外国人旅行客(カナダから)
「地域の人々の暮らしを体験したい。都市の中だけでなく、田舎の様子や暮らし、日々の活動、食べ物を見てみたいのです」

地域住民の協力で夕食づくり

宿からの景色を見て少し休憩すると、「暮らしの体験」の始まり。地元の食材を使った料理に挑戦します。夕食作りには地域の人も参加します。山平を始めた当初、田代さんは体験プログラムもして、食事も一緒に作って、という大変さに限界を感じていたといいます。

田代さん
「ちょっと弱音を地域の人に話したら、それだったら一緒にごはん作るとか、協力できることは協力するよって言ってくれたのもあって」

開業にあたり、さまざまな場面で地域の人が協力してくれました。

田代さん
「足りない備品とか、お皿とか、お布団とか、あるのを使っていいよとか、あとは大家さんもとても協力的で」

1時間ほどかけてホウレンソウの白あえなどができあがりました。

田代さん「味はどう?」

外国人旅行客(カナダから)「すごくいいよ」

地域の人
「元気が出る。こういう場所に外国人さんが来られて、ここの料理を食べていただくのは私も楽しい」

この日は、山平の大家さん・中野さんも訪れ、みんなで食卓を囲みます。

「山平」の家主・中野幸郎さん
「みなさんと一緒に歓迎してくださるところがすごくありがたくて。地域の人と一緒にっていうのが、やっぱり大きな要素ですね」

食後のデザートには、3人の住む地域で人気のスイーツを。田代さんが3人に教わりながら一緒に作りました。

外国人客
「家族や隣人が集まって一緒に料理することはあるが、海外で地域の人と一緒に料理をするのは初めて。すばらしい経験でした」

伝統の石見神楽も体験

日が暮れて、この地域で受け継がれている石見神楽の練習会場に向かいます。福賀神楽保存会の披露が終わると、こちらも体験。衣装を着させてもらい、時間を楽しみます。

保存会メンバーの中学生
「独特な文化を外国の人に知ってもらえてうれしいです。もっと知ってほしいなと思いました」

石見神楽を広めていきたい会としても、外国人に見てもらえることは貴重な機会だといいます。

保存会のメンバー
「海外の方に見てもらうことってあんまりないので、すごくいい機会で助かっています」

福賀神楽保存会・木村喬会長
「外国人は最初は服に興味があるし、みんな写真を撮ってもらうし。いろんな国の人に知ってもらうというのは、とても楽しいし大事なことだと思います」

地域の人に出会える宿に

訪れる側は、体験を通してその地域の暮らしを知ることができる。迎える側は自らの生活のあり方や伝統を伝えることにやりがいを感じる。田代さんが体験プログラム作りで重視していた「ウィンウィン」の関係が外国人客の受け入れでも生かされているようでした。

田代さん
「翻訳アプリを地域の方が入れてくれたりとか、こっちがお願いしてというよりも、もし散歩のときに出会ったらとか、自発的にそういうのをやってくれる方が多いので、喜んでくれているんじゃないかなと思います。地域の人がいないと『山平』は成り立たない」
田代さんはそう考えます。

田代さん
「ここに泊まるからこそ地域の人たちに出会える、そういう宿でありたいなと思います」

地域の人とみんなで迎えることが両者に価値のある観光をかなえているようです。

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