保護司殺害事件で露呈した安全確保の問題、それでも…福井県の19年目の保護司が語る実情と気概

 滋賀県大津市で保護観察中の男が担当保護司の男性を殺害した事件を受け、保護司の安全確保が問題になっている。福井県内の複数の保護司は、対象者とのトラブルは県内で聞いたことがないとしながらも、「事件をきっかけに不安に感じる人が増えるはず」と話し、なり手不足に拍車がかかることを懸念している。

 滋賀県警は6月8日、大津市の保護司新庄博志さん(60)を殺害したとして、近所に住む飯塚紘平容疑者(35)を殺人容疑で再逮捕した。容疑者は強盗事件を起こして2019年6月に有罪判決を受け、保護観察中だった。新庄さんが更生支援を担当し、自宅で面談していた。死亡したとされる5月24日夜も午後7時から自宅で面談する予定で、容疑者が玄関から入る様子が防犯カメラに写っていた。

 これまで約50人の更生に携わってきた保護司19年目の岩佐和則さん(70)=福井市=は、面談を新人とベテランの2人で担当するケースはあるとした上で「原則は一対一」と説明する。県内10の保護司会が面談場所としてサポートセンターを各地区に設けているが「平日の日中しか開いていないので利用は現実的ではない」ため、岩佐さんも自宅を使っているという。

 岩佐さんは「これまで危ない思いをしたことはない」と語り、約30年活動している60代の女性保護司も県内で目立ったトラブルは聞いたことがないと話す。福井保護観察所(福井市)によると、保護司が活動中の人的・物的被害に対する補償を受けるために加入する保険が県内で適用されたことはない。

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 保護司は23年1月現在、全国で約4万7千人が活動しているが、20年前に比べて約2200人減少した。平均年齢は65.5歳。担い手不足は深刻で、高齢化や家族の反対などが原因とされる。県内の保護司は409人(今年2月現在)で、うち約4割の160人が70歳以上だ。15年前は総数417人に対し、70歳以上は2割の87人。人数に大きな変化はないものの、高齢化は進んでいる。

 岩佐さんは「保護司にならないかと知人に勧めても『家族が怖がる』と断られてきた。今回の事件で、さらになり手が減ってしまうのではないか」と懸念する。女性保護司も「(大津市の事件は)2人きりじゃなかったら結果は変わっていたのかもしれない。保護司の高齢化やなり手不足も含めて対策が必要だ」と話した。

 岩佐さんは元暴力団員や薬物事件を起こした人も担当してきた。「最初は怖い気持ちもあった。自宅で面接していると大きい声を出すし、見た目もいかにもみたいな人がいる。だけど、そういう人たちは何回も刑務所に入り、何人かの保護司の世話になってきた。自分で罪の連鎖を終わらせる、絶対立ち直らせるんだと逆にやりがいと思って頑張ってきた」

 担当した若者が「結婚しました」「子どもができました」「起業しました」と報告に来てくれることもあるという。「環境が人を変えると信じている。犯罪や非行のない地域づくりに保護司は欠かせない。危険な仕事と思ってほしくない」と訴える。

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 保護司 刑務所や少年院を出た保護観察中の人たちと定期的に面会し、生活や仕事の相談に乗るボランティアで、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員。社会での更生支援に重要な役割を担う。任期は2年で再任可能。原則76歳未満だが、希望すれば特例的に78歳未満まで再任できる。退任する保護司が新任を推薦するのが慣習。社会を明るくする運動などの犯罪予防活動も担う。  

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