父の想いに涙…漫画に登場する「不仲だった父子が和解した感動シーン」3選

ビッグコミックス『美味しんぼ』第111巻(小学館)

本日6月16日は「父の日」だ。いつも家族のために奮闘しているお父さんに「ありがとう」を伝えるにはもってこいの日だ。

一方、漫画の世界の父と子は感謝どころか、いがみ合う例が多い。コミュニケーションがうまく取れていなかったり、互いの信念や立場が相容れなかったり、分かり合えない父子の対立は定番のドラマといえる。

今回は「父の日」にちなんで、そんな不仲父子が見事に和解した名作漫画を紹介しよう。

■20年以上の因縁に終止符『美味しんぼ』山岡士郎と海原雄山

仲の悪い父子キャラの大定番といえば、料理バトル漫画の金字塔『美味しんぼ』(原作:雁屋哲氏、作画:花咲アキラ氏)の主人公、山岡士郎とその父親の海原雄山だろう。

お互いに「究極のメニュー」と「至高のメニュー」を掲げ、より素晴らしい料理を競い合う2人。病死した母親を雄山が大切にしなかった、という士郎のトラウマに端を発する父子の仲は、連載期間にして20年以上も険悪なままだった。

そんな2人が和解に動き出したのは、士郎の結婚がきっかけだ。士郎の披露宴で雄山が妻への大事な思いを語ったり、父親になった士郎が厳しくも熱心に育ててくれた雄山の心を実感したりと、ゆっくりながらも父と子は歩み寄る。

和解の流れで筆者が好きなのが、意識不明の重体となった雄山のもとへ士郎がお見舞いに行くシーンだ。過去の憎しみと父を尊敬している本心がぶつかり合うも、最後は「おやじ…」とぼそりと声をかける士郎。そして、雄山は意識を取り戻す。父子の絆を美しく描いた、本作有数の名シーンだと思う。

そして単行本102巻で行われた最後の料理対決を経て、士郎と雄山は真の和解を果たす。士郎の母・とし子の写真と一緒にワインを飲みかわす“家族団らん”は、漫画史に残る父子和解の瞬間といえるだろう。

■『鋼の錬金術師』エドワードとホーエンハイム

次は、ダークファンタジー漫画の大ヒットタイトル『鋼の錬金術師』(荒川弘氏)から、主人公のエドワード・エルリックと父親のヴァン・ホーエンハイムを見てみよう。

エドワードは、自分と弟・アルフォンスが小さい頃に家出したホーエンハイムを嫌っていた。母・トリシャが病死したのはホーエンハイムがそばにいてくれなかったからだと考え、再会しても「親父」と呼ぶことすら拒絶する嫌いぶりだ。

だが、ホーエンハイムは家族を深く愛していた。家を出た理由も、アメストリス国そのものを揺るがす陰謀を食い止めるためであり、ひいては家族の命を守るためであった。

最初は父親を信用しなかったエドワードだが、交流を経てその真意を知るようになり、長年の憎しみを少しずつ和らげていく。普段はクールな印象のエドワードが父親には頑固になってしまう姿は年相応の少年らしく、ちょっとかわいい。

父と子のわだかまりが解けきったのは最終話のことだ。アルフォンスが「真理の扉」に囚われてしまい、取り戻すにはひとり分の命を差し出すしかない状況にエドワードは追い詰められてしまう。

そしてホーエンハイムの「自分の命を使え」という決死の提案にエドワードは、「バカ言ってんじゃねぇよクソ親父!!」と、涙ながらに怒鳴り返すのだ。自分たち家族を思うホーエンハイムの気持ちは本物だと、ついにエドワードが認めた瞬間であろう。

何年も離れ離れになっていた親子でも、愛する気持ちが残っていればやり直せる……そんな温かな気持ちにさせてくれるワンシーンだ。

■父への愛で覚醒する娘『ジョジョの奇妙な冒険』空条徐倫と空条承太郎

荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』第6部「ストーンオーシャン」の主人公、空条徐倫も父親との関係が悪い主人公だ。しかもその父親は、第3部で主人公だった空条承太郎である。

DIOとの因縁にまつわる戦いから愛する妻子を守るため、あえて疎遠になろうとした承太郎。そんな事情を知る由もなく「自分は父親に愛されていない」と感じながら成長した徐倫。悪と戦うジョースターの運命に翻弄され、すれ違ってしまったのがなんとも哀しい。

そんな父と娘が通じ合えたのは、第19話でのことだ。冤罪により収監された徐倫は、承太郎の手引きで脱獄を図る。だが、あと一歩のところでスタンド「ホワイトスネイク」の襲撃を受け、「スタープラチナ」を奪われた承太郎は致命傷を負ってしまう。

承太郎ひとりなら避けられたはずなのに、自分をかばったせいで……。うろたえる徐倫に、承太郎は最後の力で脱出の手順を伝え「おまえの事は……いつだって大切に思っていた」という言葉を残し、意識を失う。

自分は父に愛されていたと気づいた徐倫は脱獄を中断。そして意識不明となった承太郎を救うため、「スタープラチナ」を奪った犯人を探し始める。

このエピソードまでは状況に流され気味だった徐倫だが、愛を知り、運命と戦う覚悟を決めるのだ。父子の和解と主人公の覚醒、ふたつの見せ場を凝縮した名シーンである。

親子関係は円満が理想だが、そうもいかないのは現実でも物語でも同じだ。すれ違いや食い違いから不仲になり、長い時間をかけて和解するケースも往々にあるだろう。

父の日に素直に「ありがとう」を言えるなら、その父と子は幸せだ。もし、あなたがその幸せを掴んでいるならば、噛みしめながらその気持ちを伝えてみてはいかがだろうか。

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