【社説】経団連の夫婦別姓提言 自民党は真摯に向き合え

 結婚する際に夫婦がそれぞれの姓を名乗ることもできる選択的夫婦別姓について、早期の実現を求める提言を経団連が初めてまとめた。

 選択的夫婦別姓はもはや、時代と社会の要請だ。それなのに、自民党は「伝統的家族観」を盾に反対する保守系議員に配慮し、議論を棚上げしたままにしている。

 大企業を中心に構成する経団連。自民党の有力な支持母体でもある経済団体が踏み込んだ意味は大きい。ビジネス現場で活躍する女性が増え、企業経営の観点でも夫婦同姓の弊害が目立ってきた証左だろう。自民党は従来の姿勢を改め、法改正を急ぐべきだ。

 日本は世界で唯一、結婚する2人が同じ姓になるよう民法で義務付けられている。どちらの姓を選んでもいいが、95%は女性が改姓しているのが現状だ。

 政府は結婚後も旧姓を通称として使う人を増やすことで、職業上の不利益を和らげようとしてきた。しかし、経団連が女性役員に実施したアンケートでは、88%が通称を使えても「何らかの不便さ・不都合、不利益が生じる」と回答。法的な裏付けのない通称の限界は明らかである。

 具体的には、通称では銀行口座を開けなかったり、契約書にサインできなかったりする弊害が出ている。海外では通称が理解されづらいため、出入国や宿泊時に不正を疑われるケースも切実な問題だ。

 選択的夫婦別姓を巡っては28年前に法相の諮問機関、法制審議会が導入を答申している。最高裁も現行制度を合憲としつつ、今後「違憲と評価されることもあり得る」として国会に対応を求めてきた。

 共同通信の世論調査でも76%が導入に賛成している。民法の規定は憲法違反として、国に損害賠償を求める訴訟も後を絶たない。こうした国民の声がなぜ届かないのか。

 自民党保守派の強い反対に尽きる。与党でも公明党は賛成し、各野党も導入に前向きだ。保守派は別姓を認めれば家族の一体感が損なわれると声高に訴える。しかし現在も夫婦の3組に1組が離婚しており、同じ姓が夫婦をつなぎ留めているとは言い難い。

 むしろ同姓制度が結婚の障壁になるケースはないか。女性の不利益から目を背け、家族が同じ姓で暮らすのが「日本の伝統」と固執するのは、多様性の時代にそぐわない。

 各国の男女格差をランク付けした2024年版のジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中118位だった。先進7カ国で依然として最下位だ。同姓制度にも世界の厳しい目が向けられていることを、政府・与党は深刻に受け止めなければならない。

 同じ姓になりたい夫婦もいれば、旧姓を名乗りたい人もいる。どちらの選択も尊重される社会が望ましいのは、明らかだ。

 自民党内にも賛成派はいる。岸田文雄首相もかつてはその一人だった。一刻も早く党内をまとめ、子どもの姓を含めた制度設計の議論を推し進めてほしい。国民や経済界の声に真摯(しんし)に向き合い、今こそ重い腰を上げる時である。

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