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吉本興業に所属するピン芸人、おばあちゃん。2019年4月にデビューした芸歴5年の“若手芸人”だ。昨年のM-1王者令和ロマンは東京NSCの1期先輩にあたる。若手といっても年齢は77歳。昭和、平成を懸命に生き抜き、令和の時代に新人としてデビューを果たした後期高齢者なのだ。家族の生活のため中学卒業後に就職、働きながら通信制高校、短大、4年制大学を卒業。38歳の時にはステージ4の乳がんが発覚し、生死を彷徨う。そんな彼女の波乱万丈すぎる人生の「THE CHANGE」に迫る。
今年(2024年)3月にNHKで放送され、話題となったドキュメンタリー番組があった。
取り上げられたのは77歳で芸人をやっているおばあちゃんだ。
では、長年芸の道一本で生きてきた老芸人の一代記だったのかというと……実は違う。合っているのは「老芸人」の部分だけ。
おばあちゃんは長年芸の道一本で生きてきたわけではないし、内容も一代記ではない。そもそも77歳だからおばあちゃん、なのではない。“おばあちゃん”はれっきとした芸名だ。
「自分がドキュメンタリー番組の主人公になるなんて、もう驚きしかないですよ」と朗らかに笑うその人は、後期高齢者にして芸歴はたった5年しかないバリバリの新人なのだ。
「『Dearにっぽん』という30分の番組だったんですけど、取材期間はかなり長かったですよ。密着取材していただいたのですが、それが始まった時期にちょうど本の進行も重なっていたので、お休みがほとんどないような毎日でした」
本とは3月に発売された自叙伝『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』のことである。
「正直言いまして、この一年間は一体何が起きているのかよくわからないって感じで(笑)、とても大変でした。けれど、いつも周りが賑やかで楽しかったので、いざ終わってみると寂しいものですね」
77歳の若手芸人おばあちゃん
改めて紹介しよう。
おばあちゃんこと沖原タツヨさんは吉本興業所属のピン芸人だ。生まれは1947年、だが芸人になったのは2019年。オリジナルの「老人あるある漫談」を得意とし、2023年からは神保町よしもと漫才劇場に所属している。神保町よしもと漫才劇場は新人にネタ披露の場を与え、出演チャンスをかけたバトルライブなどを行う若手育成に特化した劇場だが、76歳でのデビューは言うまでもなく吉本史上最高齢。おばあちゃんはそこで自分の孫ほどのライバルたちと肩を並べ、勝ち抜き戦にも残り続けている“若手”芸人なのだ。さらに、劇場以外でもいわゆる“営業”をこなしている。
「営業先は葬儀場の説明会とかね(笑)。来場者には高齢者が多いからか、私の年寄りネタでも笑ってくださるのでうれしいですよ」
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その実力は、お笑い界の登竜門NSC(吉本総合芸能学院)で養われた。NSC24期生として一年間みっちりお笑いの基本を学んだのである。同期生には『UNDER5 AWARD 2023』で優勝した「金魚番長」や2019年の『女芸人No.1決定戦 THE W』の決勝進出した「そのこ」などがいる。
「でも、入学した時は自分がお笑い芸人になれるなんて思ってもいなかったんです」
そう、おばあちゃんは当初、お笑い芸人を目指していたわけではなく、舞台の勉強をしたかったのだ。
「68歳の時にある高齢者劇団を知り、最初は観客側だったのが、いつのまにか演者として関わるようになりました。ですが、演技経験といえば中学時代に演劇部に入っていたぐらいなので、まったく勝手がわからない。独特の演劇用語も理解できませんでした。こんなことでは他の皆さんに迷惑がかかるし、どうせやるならきちんと舞台の勉強がしたい。そう思うようになり、新聞に生徒募集広告を出している演劇学校に片っ端から電話をかけました」
しかし、希望はなかなか叶えられなった。障壁になったのが70歳という年齢だった。
「あちらこちらに電話をかけまくりましたが、年齢を言うと断られてばかりで。それでもう半ば諦めていた頃に、友達の息子さんがNSCのことを教えてくれたんです。渡されたのは、裏に電話番号だけが書かれた薬袋でしたけど」
だが、そのぞんざいなメモ書きが、沖原さんの運命を大きく変えることになったのである。
(つづく)
おばあちゃん
1947年2月12日生まれ、東京都出身。東京NSCに24期生として入学し、2019年4月に72歳でデビュー。2023年6月には「神保町よしもと漫才劇場」の過去最高齢となる76歳で劇場所属メンバーとなる。2024年3月には『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』 を上梓した。