【6月16日付社説】いわきの公共施設/機能維持した適性化目指せ

 いわき市は、市内の公共施設の「個別施設計画」を策定した。各施設の建築年や耐震基準の種類などの情報を記した上で、「現状維持」「あり方見直し」「廃止」など、今後の施設管理の方向性を示した内容となっている。

 市によると、人口当たりの施設数は全国の中核市で7番目に多く、約4割が築40年以上を経過した旧耐震基準のままだ。今ある施設を改修するなどして全て維持しようとすると、現在は約50億円の関連事業費が、毎年平均で約200億円に拡大するという。200億円は本年度当初予算全体の約1割強に当たり、市は人口減少による税収減を見越せば、将来的に他の施策に十分な財源を充当できない可能性があると指摘する。

 人口減少下での公共施設の管理は全国的な課題となっているが、東日本大震災で大きな被害を受けた地区ではこれまで、復旧復興が優先されてきた経緯がある。市は今回の計画公表を契機に、現状維持は不可能だという危機感の共有を図り、将来の人口規模に応じた公共施設の適正化の議論を前に進めていくことが重要だ。

 市は、支所や公民館、図書館などの住民に身近な行政サービスや機能については、施設の新築・改築時に複数の機能を集約するなどの形で担保する考えを示している。このため、本年度後半から施設の老朽化が進んでいる地区を優先に「市民対話」の場を設け、各地区での公共施設の在り方について意見交換を進める方針だ。

 対話の場では、地区に必要な行政機能は何かを意見交換を通じて明確にし、その実現に必要な施設像を絞り込んでいく形式を取る。市には、現在の施設が担っている役割や将来的な課題、デジタル変革(DX)を活用し在宅でも行政サービスを受けることができる仕組みなどを丁寧に説明し、幅広い層の住民から納得してもらえるような解決策につなげてほしい。

 公共施設の中には宿泊施設やキャンプ場など、他の行政機能と統合できない性格の施設がある。市はこれらの施設について、本当に行政が担う必要性があるかどうかなどの視点から現状を把握した上で、今後の方向性を判断する。

 建設当時は公共施設である意味があったかもしれないが、利用者の減少などでその役割が縮小している傾向が明らかな施設については、民間や地域への移譲などを速やかに進めることが欠かせない。対応の遅れは維持管理の財政負担を長引かせることを肝に銘じながら、次世代に先送りしない決断を続けていかなければならない。

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