ドラマ・ドキュメンタリー・コメディ。見ておきたい「ビートルズ映画」3選

今もなおビートルズの人気は高い。それは映画の公開が日本でも続いていることからもわかる。そこで今回は、数あるビートルズ映画のなかからオススメ作品を選んでみた。ドラマ、ドキュメンタリー、コメディ、異なるジャンルからビートルズファンでなくても楽しめる3本を紹介しよう。

ジョン・レノンとポール・マッカートニーの出会い

『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』

ジョン・レノンの少年期、ポール・マッカートニーと出会った頃を描く母乞いもの。

▲© 2009 Lennon Films Limited Channel Four Television Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved

母を乞う少年がレノン。レノンは両親と生き別れ、母の姉であるミミおばさんに育てられた。そう遠くない場所に住んでいた母親を、レノンが探しあてることから、ストーリーが展開していく。ロカビリーをかけて踊るような母、お堅いミミおばさん、対照的な二人のあいだを行き来するレノン、という奇妙な三角関係の様相を描いている。

同じ頃、ロックに目覚めたレノンの前に現れた天才的音楽少年、彼こそがポール・マッカートニーだった。

その後、レノンとマッカートニーはご存知のようにビートルズになるわけだし、母とレノンがどうなるかもビートルズファンには知られているかもしれないが、物語として見ると胸に迫る。

レノンの父親違いの妹ジュリア・ベアードの本を基に、映画『コントロール』のマット・グリーンハルシュが脚本を手掛けた。サム・テイラー=ウッド(当時)長編監督デビュー作で、監督の娘2人(前年に離婚していた前夫との子)が、ジュリアともう1人の妹を演じている。

本作のワールドプレミアが行われた2009年のロンドン映画祭で、監督はオーディション時のアーロン・ジョンソン(当時)を「出会った最初の数分で、この子だ!って」と、今となっては違う意味での納得発言をしている。

「お茶を勧めたりするわたしに、イラついてる感じが見えた。すごく集中していて、張り詰めていた。ほかにも数百人のオーディションがあったけど、レノンはこの子だって、心の中ではすぐに決まった」と即決だったそう。

アーロンが射止めたのは、主役の座だけではなかった。今では名前もアーロン・テイラー=ジョンソンにサム・テイラー=ジョンソンだ。

▲『ノーウェアボーイ』ワールドプレミア時のサム&アーロン・テイラー=ジョンソン(筆者撮影)

ワールドプレミア後、当時19歳だったアーロンと42歳だった監督の婚約が発表された。翌夏、二人のあいだに女児誕生、監督には前述のように前夫とのあいだに2人の娘がいて、さらにもう1人生まれてアーロンは若くして4人のパパになった。

体操とダンスで鍛えた高い身体能力を持つアーロン、現在は次期007抜擢かと注目を集めている。

余談だが、レノンが少年期を過ごしたミミおばさんの家は観光名所になっている。

本作から10年ほど前、筆者もリバプールに行った際、寄ってきた。そのときは家には入れず外観のみだったこともあり、たいして感慨もなく眺めた。同時期、ドイツで感じ入りつつ見て回ったルートヴィヒ2世の住居とは大違いだ。

ルートヴィヒのは城で、ミミおばさんのは普通の家だからではなく、そもそも思い入れが違った。もちろん思い入れの素は、ルキノ・ヴィスコンティ監督『ルートヴィヒ』だ。ミミおばさんの家も、本作後ならもっと感慨深かったろうに、惜しいことをした。

ジョージ・ハリスンにスポットを当てた作品

『ジョージ・ハリスン / リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』

マーティン・スコセッシ監督の手腕が際立つジョージ・ハリスンのドキュメンタリー。

▲マーティン・スコセッシ監督 ©Brigitte Lacombe

上述のような生い立ちで、最期は銃弾に倒れたジョン・レノンは、どこを切り取っても物語になるドラマチックな人生だ。そして、ビートルズでは、ポール・マッカートニーがレノンの曲作りにおけるパートナーの位置を占め、リンゴ・スターは次にあげる映画でもそうだが、ツッコまれがちなボケ的位置、目立たないのがハリスンだ。

そのハリスンを主人公に、ここまで興味深いドキュメンタリーを作れるとは、さすがスコセッシ監督。

例えば、『タクシードライバー』はベトナム帰りのタクシー運転手、『レイジング・ブル』は墜ちていくボクサーと、スコセッシ監督には鬱屈を抱えた男を主人公にした名作が多い。

本作はそういったドラマ映画ではなく、ドキュメンタリーであるが、レノン&マッカートニーの影で、自身の音楽性を十分発揮できずにいたハリスンも、スコセッシ好みの主人公と言えるのかもしれない。

ビートルズを離れても活躍したハリスンは、音楽家としてはもちろん、映画プロデューサーとしても秀作を世に送り出している。『ライフ・オブ・ブライアン』をはじめとしたモンティ・パイソン映画から、『ウィズネイルと僕』のようなカルト人気を誇る映画まで、センスの良いラインアップだ。

おとなしそうに見えて、ユーモア好きでもあった。仲の良かったリンゴ・スターに、死の床で言ったジョークが泣かせる。

『ハード・デイズ・ナイト』

アイドル映画とあなどるなかれ。もしビートルズを知らない方がいたとしたら、まず本作をご覧あれ。

若き日のビートルズが、自分たちを演じたドキュメンタリー風コメディ。

黄色い声をあげて追いかけてくるファンから走り逃げながら、仕事場に向かう4人がコミカルに描かれる。演技が下手なのもご愛敬、ゴキゲンなヒット曲の数々とともに、とぼけた味のコメディを楽しむうちに、当時の熱狂と、熱狂を生んだ理由もわかるはず。

▲松竹ホームビデオ

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