前回王者イタリア代表、アルバニア戦で浮かび上がった収穫と課題とは? 「重要な時間帯に致命傷につながりかねない“軽いプレー”が…」【EURO2024】

試合開始からわずか23秒後に、フェデリコ・ディマルコの不用意なスローインをかっさらわれてそのままシュートを決められ先制を許したイタリアは、考え得る最悪のスタートを切った。しかしすぐさま反撃に転じて11分、16分にゴールを奪って逆転すると、最後までそのリードを守り切って2ー1で大事な初戦を勝利で飾った。

試合の流れを決したのは、思わぬ形で生まれた先制点を受けての両チームの振る舞いだった。望外のリードを得たアルバニアが、戦術的にも精神的にも守りに入ったのに対し、イタリアは失点のショックを引きずることなく攻勢に転じて、10分後にCKからアレッサンドロ・バストーニのヘッドで試合を振り出しに戻し、主導権を完全に手中に収める。

アルバニアはその後も5バック、時には6バックの最終ラインを低い位置に保つ受動的な振る舞いを変えず、イタリアはそれに乗じる形で一方的にボールを支配。危険な状況を立て続けに作り出すと、16分にはニコロ・バレッラが相手のクリアボールをダイレクトで蹴り込んで逆転に成功した。

イタリアが一方的に押し込み、アルバニアがそれを耐え続ける展開は後半の半ば過ぎまで変わらなかった。最後の15分は、意を決したアルバニアが積極的に前に出て、疲労からリズムを落として守りに入ったイタリアを押し返し、90分には最終ラインからのロングボールに反応して裏に抜け出したレイ・マナイがチャンスを迎える。しかし飛び出したGKジャンルイジ・ドンナルンマにコースを制限された角度のないシュートは、わずかにゴールの枠を外れ、試合はそのまま2ー1で幕を閉じた。
下馬評では圧倒的にイタリアが有利と見られていただけに、結果的には順当な勝利と言えるかもしれない。しかしこの試合を通じてポジティブな側面とネガティブな側面、収穫と課題が浮かび上がったのも確かだ。

収穫に挙げられるのは、開始直後にショッキングな形で失点したにもかかわらず、すぐに反撃に転じて難なく同点に追いつき、その勢いで逆転に成功したこと。逆境に対する反発力は、あらゆることが起こりえるビッグトーナメントを勝ち抜くためには絶対不可欠な要素だ。初戦でそれを示したことは、チームにとって大きな自信になったはずだ。

ルチャーノ・スパレッティ監督が就任から一貫して打ち出してきた、3ー2ー5配置(アルバニア戦の基本システムは4-2-3-1)による後方からのビルドアップと、ピッチの幅と奥行きを積極的に使った崩しが狙い通りに機能したことも、もうひとつの大きな収穫だ。

自陣深くに構築されたローブロック守備を崩すのは、どんなチームにとっても簡単ではない。しかしこの試合のイタリアは、最終ラインのバストーニとリッカルド・カラフィオーリ、中盤のジョルジーニョとバレッラが連携してスムーズにボールを動かし、敵中盤ラインの背後に数多くのパスを送り込んだ。

そこからの崩しも、中央でのパス交換からサイドに開いて、左のディマルコ、そしてとりわけ右のフェデリコ・キエーザが1対1で相手をかわして危険なクロスをペナルティーエリアに送り込む、あるいはダビデ・フラッテージやロレンツォ・ペッレグリーニの裏に抜け出すフリーランに、ジャンルカ・スカマッカやバレッラが絡むコンビネーションによる中央突破など、狙った形からいくつもの決定機を作り出していた。
とくにビルドアップと仕掛け・フィニッシュにも絡んで八面六臂の活躍を見せたバレッラ(故障から復帰したばかりで、それでもまだ抑え気味にプレーしていた)、右サイドの突破で敵DFを翻弄したキエーザ(この試合のMVPを受賞)が期待通りの活躍を見せたことは、大きな収穫と言える。

とはいえ、その一方ではいくつかの課題が浮かび上がったことも確か。開始直後の失点を招いたディマルコの不用意なスローインや、終了直前にマナイに先手を取られてシュートを許したカラフィオーリのデュエルと、重要な時間帯に致命傷につながりかねない「軽いプレー」が見られたのは明らかな反省点だ。

また、前半を通して攻勢に立ち、少なくないチャンスを作り出したにもかかわらず、後半に入ると明らかにアクセルを緩め、3点目を挙げて試合を決めるよりもリスクを冒さず1点差を守り切る方に意識が向き過ぎたことは、この試合をめぐる最大の課題だった。

開幕から2日間の4試合ですべて3点以上決まっている事実が示すように、近年はこうしたビッグトーナメントでも、引き分けで満足するよりは負けるリスクを負ってでも積極的に勝ちを狙う攻撃的な振る舞いが、チームの強弱にかかわらず一般的な振る舞いになってきている。
相手にボールを委ねて受けに回ったり、リスクを冒さず無難なボール保持を続けて攻撃の圧力を下げる振る舞いは、相手を利する方向にしか働かない。その意味で、1点差しかないにもかかわらず消極的になった後半半ば以降の振る舞いは、次戦以降の大きな改善ポイントだ。90分のマナイのシュートが入っていれば、イタリアにとっては取り返しのつかない事態になっていた。

最後にもうひとつ課題を挙げるとすれば、次戦の相手スペインのように前線から強度の高いプレスをかけてくる相手に対しても、それを回避してスムーズに敵陣にボールを運んで主導権を握ることができるかどうかという点。アルバニアは最初からプレスを放棄してベタ引きの守備を選択したため、イタリアのビルドアップとポゼッションが厳しいプレッシャー下でどれだけ機能するのか、試す機会がほとんどなかった。

そもそも、ビルドアップとポゼッションの質、すなわちボール支配力でイタリアよりもさらに上をいくスペインとの戦いは、アルバニア戦とはまったく異なるタイプの試合になるはず。スペインのプレスをいなしてボール支配で互角に渡り合えるか、相手にボールを持たれて受けに回らざるをえない状況になった時に、守備の強度をどれだけ保てるか。勝点3同士で迎える次の試合でこそ、イタリアの真価が問われることになるだろう。

文●片野道郎

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