【虎に翼】正論は「純度が高いほど威力を発揮する」という桂場(松山ケンイチ)の言葉が現実に!その正論とは

「虎に翼」第54回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★

伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第11週「女子と小人は養い難し?」が放送された。

花岡(岩田剛典)の、食糧管理法を担当する判事が、法を守り一切のヤミ食品を拒絶したうえ餓死という、ある意味「気高い」死という衝撃の事実。寅子は言うまでもないが、その記事を見て大きく動揺する場面で再登場したのが、花岡の同期であり、寅子たちとも明律大学で共に法を学んだ轟(戸塚純貴)だった。

ショックを受けてか街なかで泥酔し荒れる轟の前に現れたのが、よね(土居志央梨)。戦禍をどうにかくぐり抜け、生き延びていたが、決して恵まれた環境ではないことがうかがえる。

兄の直道(上川周作)と優三(仲野太賀)という大切な存在を失くしてしまったものの、戦争というものに極力主観を交えず「そこにあるもの」として流されるような市民たちの姿を描いてきた本作だが、戦時中よりも戦後の復興期においてのダメージを受けるさまをこうして描くことで、その影響の大きさは浮き彫りにされる。

「虎に翼」第51回より(C)NHK

1948(昭和23)年10月。終戦からすでに3年以上が経過した。寅子はGHQからの通達による家庭裁判所の設立のため、桂場(松山ケンイチ)に家庭裁判所設立準備室への異動を命じられる。

「家庭裁判所設立までこぎつけた暁には、今度こそ、私を裁判官にしてください」

寅子の交換条件に、時が流れても、世が変わっても、周囲の人間模様がどれだけ変わっても、寅子の思いにブレのないことがわかり、ますます頼もしさを感じる。

そんな寅子を迎えた新たなボスが、これまたクセの強い多岐川(滝藤賢一)だ。ここにいたのが、腐れ縁のような存在でありつつも、寅子とのつば迫り合いが生む笑いがどこかホッとする存在ともなりつつある小橋(名村辰)。そして小橋や花岡、轟、よねらと同じく同窓生の稲垣(松川尚瑠輝)が再登場、意外な組み合わせでの新たな展開が始まった。

さらにもうひとつ大きな再会があった。

準備室で小橋らとともに多岐川のもとで働く汐見(平埜生成)。家庭裁判所の設立にむけた話し合いの意味合いを込めた飲み会で、飲めない汐見は酔い潰れてしまい、送り届けた先にいたのがかつての学友・崔香淑(ハ・ヨンス)だった。

無事生き延びていた以上に、そもそも日本にいたということも含めてあまりにも意外すぎる再会。それは寅子だけでなく、われわれ視聴者にとってもそうだった。

「ヒャンちゃん!」
そう呼びかける寅子に、
「その名前で呼ばないで」
と冷たく拒絶する香淑とショックを受ける寅子。

この再会が、まったく喜びをともなうものではないことを痛烈に突きつけられる。

「そうしなきゃいけなかったんでしょ」
「生きていればいろいろありますよ」
翌日、汐見の口から説明を受けるが、はる(石田ゆり子)の言葉がその背景、事情を深く語らずも物語る。兄とのこと、出自を隠して生きていくこと、さらに、後日、「崔香淑」のことは忘れて自分のことは誰にも話すなと釘を刺す伝言も受け取る。汐見によれば治安維持法のもと逮捕された兄は無罪となり、その予審が多岐川だったのだという。

戦争の影、そしてそれ以前に性別、国籍といった、今なおずっと、それこそ「100年先も」続いてきた問題を、今だって変わらないなぁと現代にフィードバックさせつつ考えるきっかけを与えてくれるような脚本には感嘆するばかりだ。

「彼女のお兄さんにひどいことをした国の人間なんだから」
そんな汐見の言葉がぐさりと刺さる。

「虎に翼」第55回より(C)NHK

さて、さまざまな再会、再登場が次々と描かれた今週ではあるが、戦後3年以上経過し、贅沢というわけではないが食うには困らない世の中が訪れたなかでも、それぞれ決して幸せといえる環境でなさそうなことが、重い(稲垣は大丈夫そうか)。我々視聴者と違い、よねや轟と寅子は、まだ再会できておらず、この先、どういうかたちで再会するのか気になるところだ。

ともに法を学び、それぞれの事情や環境で去っていった他の仲間たちはどうしているだろうか。夫のもとを離れた梅子(平岩紙)は、旧華族の桜川涼子(桜井ユキ)は、今どこで何をしているのか。久保田先輩(小林涼子)は弁護士を辞めたあと、どうしているのか。それぞれ再登場があるのかどうかわからないが、幸福な再会もあることを祈りたい。

家庭裁判所設立にむけ議論と折衝を重ねる寅子たちだが、意外な存在だったのが、弟の直明(三山凌輝)だ。東京少年少女保護連盟の一員として活動する直明の、純度の高い希望に満ちた若き熱意に、それぞれの組織の大人たちは感銘を受け、話し合いは一気に加速することになる。これこそ桂場の言っていた、「正論は見栄や詭弁が混じっていてはだめだ。純度が高ければ高いほど威力を発揮する」という言葉そのものの現象だ。

かくして、49年(昭和24年)の幕開けとともに、「東京家庭裁判所」は無事設立される。もちろん、設立がゴールではなく、ここからまた新たなスタートである。予告を見るぶんには次週もまた、向き合わなければならない現実が重くのしかかりそうな気配である。

多岐川のもと、準備室メンバーたちのチーム感をまだまだ見ていたいいっぽう、寅子が桂場に突きつけた交換条件は成立するのか。まだまだ寅子の戦いは続く。


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