【社説】G7と核なき世界 広島で立てた誓い、どこへ

 イタリアで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、首脳声明を採択して閉幕した。「核兵器のない世界」への取り組みがどう話し合われ、首脳声明にいかに反映されるのか。昨年の開催地である被爆地広島の関心は強かったはずだ。

 残念ながら、後段の「軍縮・不拡散」の項目で触れただけだった。前文で言及し、ウクライナに続く重要項目に選んだ広島サミットとの落差は大きい。岸田文雄首相が主導してまとめた初の核軍縮文書「広島ビジョン」については「想起する」の表現にとどまる。後退の印象が拭えない。

 もとより、一朝一夕に核廃絶が実現する国際情勢ではない。だが1年前、核保有国の米英仏を含む首脳は原爆資料館を訪れ、原爆慰霊碑に献花し、被爆者と面会した。核兵器の非人道性と核軍縮の重要性を国際社会に示す意義を感じたからこそ広島に集ったはずだ。核なき世界を目指す誓いはどこへ行ったのか。

 広島ビジョンは核抑止論を肯定したため、被爆者の反発を招いた。広島、長崎両市長はサミット後の平和宣言で核抑止論からの脱却を為政者に求めた。核兵器が使用されない唯一の保障は廃絶しかないと再確認を迫ったのである。

 ところが今回の首脳声明も「全てのものにとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界」という広島ビジョンの文言を引用して、核抑止の堅持を「再確認」した。被爆地の思いを受け止めた形跡はない。核兵器の減少を逆行させてはならないと「信じる」の表現に至っては、当事者意識が感じられない。

 この1年で核使用の危機はさらに深刻さを増した。ロシアは戦術核兵器の使用を想定した演習を展開している。中国の不透明な核戦力の拡大、北朝鮮のミサイル開発に加え、核開発を進めるイランはウラン濃縮設備を増強した。

 片や米国は5月に臨界前核実験を実施。米国の核の傘の下にいる日本政府は抗議しなかった。米高官は戦術核の配備拡大の可能性に言及している。こうした状況でG7が核なき世界の理念を国際社会に浸透させる役割を果たせるとは思えない。まずはG7の保有国が果たすべき核軍縮の責任を明確にしてもらいたい。

 G7自体の影響力低下も見逃せない。グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国が存在感を増す。民主主義や法の支配といった価値観を重んじるG7と隔たりがある国は少なくない。

 その民主主義が今、G7首脳の足元を揺るがす。欧米では移民・難民問題が社会の分断を深め、自国第一を唱える勢力が伸長している。G7の試練と言っていい。国際協調や多様性への理解を深める役割は重みを増している。

 G7諸国は外交にもっと力を割くべきだ。ロシア、中国などへの圧力を強めるだけでは局面を打開できまい。排除ではなく、いかに巻き込んでいくかが今後の国際秩序を構築していく上で重要だ。核なき世界への道筋にも当てはまろう。日本の果たすべき役割も、そこにある。

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