「ストレスと欲望が制御できなかった」痴漢行為でも不同意性交  “初犯”男性に「実刑4年判決」が下ったワケ

男が痴漢対象を“物色”していた京成線の青砥駅(ys/PIXTA)

昨年9月、私鉄の電車内でストレス解消などを理由に通学中の女子高生(当時15歳)のお尻を触るなどして、不同意性交等罪に問われていた無職の男に対し、東京地裁(香川徹也裁判長)は5月30日、懲役4年の実刑判決を下した。

香川裁判長は「ストレスを解消するための行為としての自己中心的な自己決定は、強く非難されるべき」と述べた。

痴漢の対象は「おとなしく、抵抗しなさそう」な女子高生

起訴状や冒頭陳述によると、男は昨年9月22日午前7時27分から33分の間に、京成線の青砥駅から押上駅の間で、女子高生のお尻を触り、さらに下着の中に手を入れて性器にも触れたという。

男は逮捕された際、2022年頃からストレスを解消するため、痴漢行為を50回程度繰り返していたことを供述した。

犯行の日も、駅で痴漢の対象を“物色”。おとなしく、抵抗しなさそうな、かつ好みの女子高生を見つけた。乗車する際に、その女子高生の後ろにつき、まずは着衣の上からお尻を触った。その後、下着の中にまで手を入れて、5分間にわたり、女性器を触ったという。

ちなみに、男はこの女子高生に対する痴漢で、行為に気づいた他の乗客から手を掴まれている。しかし、男は手を振り払い、逃走。青砥駅に戻った男は再び“物色”をしたが、この日さらなる犯行に至ることはなかった。

被害者「各駅停車にしか乗れなくなった」

被害者である女子高生は事件後、恐怖からすぐに下車できる各駅停車にしか乗れなくなったといい、「犯罪に相応しい処罰をしてほしい」と供述していた。

また、被害者の母親も「娘は表面上、変わった様子もなく日常を過ごしています。しかし、それは家族に心配をかけないようにしているのかもしれません。性犯罪は被害者の家族も苦しみます。犯人にはできるだけ長い間刑務所に入っていてほしいです」と供述していた。

裁判で男は、痴漢の犯行を認めた。

被告人質問では、弁護側の主尋問に対して、「犯行当時、ストレスと欲望を制御できなかったことで、被害者の気持ちを考えることができなかった」として、「痴漢行為については申し訳なく思っています。精神的、肉体的にも苦痛を与えた。申し訳ない」と謝罪した。また、事件を受けて体調が悪化した自身の父親に対しても「申し訳ない」と述べた。

刑法改正により痴漢でも「不同意性交」になる場合も

求刑5年、判決では懲役4年を言い渡された男。その理由として、香川裁判長は、男が公訴事実(罪)を認め反省をしていること、前科がないこと、そして被害者と刑事和解をしていることを挙げた。

しかし、初犯の痴漢に対する懲役4年の判決は、かなり重いといえるだろう。

性犯罪事件を多く対応する杉山大介弁護士も「これまでだったら出ない判決です」として、判決が出た背景に昨年7月の刑法改正があると説明する。

「刑法改正以前は、痴漢の多くは『迷惑防止条例違反』あるいは『強制わいせつ罪(現不同意わいせつ罪)』で起訴されていました。

今回のケースと同様に女性器に手指を挿入する行為があっても性交とみなされず、あくまで『強制わいせつ』での起訴になっていたでしょう。強制わいせつならば長くても懲役2年6月、罪を認めていれば執行猶予も付いていたと思います」

しかし、刑法改正により、女性器へ手指を挿入する行為も「性交」とみなされることになったほか、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない」、または「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕している」状況であれば、「不同意性交等罪」が成立するようになった。

かくして下着の中に手を入れた男は、「不同意性交等罪」に問われ、初犯にもかかわらず執行猶予なしの懲役4年と言う実刑判決が下ったのだ。

余罪については否定も……浮かぶ疑問

ちなみに、男が被告人質問で否定したことが唯一ある。捜査段階で自ら供述し、報道もされた内容だ――。

それは、逮捕されるまでに「痴漢を50回以上やった」と供述したこと。検察側が裁判上で改めてこの点を問うと、男は「記憶にない」と述べたのだ。

検察側が「捜査段階では約50回痴漢をしていると説明している」とただすと、男はこう反論した。

「痴漢する目的で電車に乗ることはあった。しかし、実際にはしていない。警察にもそう話した。(痴漢を50回も)やっていません」

検察 どうして被害女性を狙った?
男 そのとき、たまたまのタイミングでそうなった。
検察 なぜその女性だった? タイミングだけか? 誰でもよかったのか?
男 誰でも、というわけではない。
検察 過去の経験から、おとなしそうな女性を狙った? 警察にはそう説明した?
男 はい。
検察 なぜ途中で辞めなかった?
男 高揚感があった。欲望が制御できなかった。
検察 “はじめての痴漢行為”で、下着の中に手を入れたのか?
男 はい。過去のことは関係ない。
検察 警察では、過去の痴漢行為についても供述したが。
男 …(無言)
検察 つくり話か?
男 いいえ。
検察 本件後、どうした?
男 逃げて、再度、元の駅に戻りました。
検察 何のため?
男 痴漢の目的のために。
検察 “はじめて(痴漢を)やった”と言ったが、またやろうとした?
男 そのとき自分では、帰宅したと思っていた。警察で画像を見せられて、記憶が蘇った。

今回の裁判で“余罪”についてこれ以上追及されることはなかったが、再び犯行に及ばないよう自身の犯した罪と向き合うことが望まれる。

裁判長に「二度と(痴漢行為を)しないために考えていること」を聞かれた男は「よほどのことがない限り、電車には乗らない。どうしても乗らないといけないときは、女性の近くにはいかない」と語り、ストレス解消の方法として社会復帰後は「趣味のバレーボールをしようと思う」と述べていた。

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