ハイエンドスマホは「オンデバイスAI」の活用が差別化になる

By 西田宗千佳

Vol.138-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。ハイエンドスマホがたどる今後の進化を解説する。

今月の注目アイテム

Nothing

Phone(2a)

実売価格4万9800円~

↑ロンドンを拠点とするNothingが日本市場に投入するスマホ。画面は6.7インチのAMOLEDディスプレイを採用。OSは「Nothing OS 2.5 Powered by Android 14」を採用し、多彩なNothingウィジェットを利用できる

どんな機器でも“性能の陳腐化”はついて回る。必要とする機能に機器の性能が追いついてきて、ハイエンドとそれ以下の差が目立ちづらくなってくる。PCでは顕著だし、スマートフォンでも目立つようになってきた。性能の陳腐化は価格競争につながる。消費者にとってはプラスもあるが、業界全体で見ると停滞にもつながり、良いことばかりではない。

では、このままスマホも停滞するのだろうか?

ひとつ大きな変化として見えてきているのは「AIによる価値向上」だ。それも、クラウドでのAIではなく「オンデバイスAI」の活用である。

長年、AIをアシスタントのように使ってもっと生活を楽にしたい……という試みは続けられてきた。実のところなかなかうまくいってはいないのだが、大きな変革になりそうな技術として脚光を浴びているのが「生成AI」だ。OpenAIのGPT-4やGoogleのGeminiに代表されるものだが、かなり“人間に近い知的な反応”だと感じられるようになってきたことで、実用的な“アシスタントとしてのAI”の実現が見えてきた。

そこで重要になるのが、クラウドではなく機器の中で処理が完結するオンデバイスAIだ。スマホ内でアシスタントのように働かせると、プライベートな情報を多数扱うことになる。だからクラウドには情報を上げず、自分の機器内ですべてが完結することが望ましい。

ここで先行するのがGoogleだ。同社はAndroidに生成AI「Gemini」を統合していく方針。現在もPixelやGalaxyでは、オンデバイス版のGeminiを使ってリアルタイム翻訳などを実現しているが、今後はもっと多彩なことが可能になっていく。

今年の後半には、英語だけではあるが、Pixelでは“通話内容から、電話が詐欺的なものである場合、その旨を警告として出す”機能が搭載される。音声通話をAIが判断して危険を耳打ちしてくれるようなもので、まさに、オンデバイスAIがなければ実現できない機能だ。

ただし、オンデバイスAIを使うには性能の高いプロセッサーが必要だ。正確には、プロセッサー内のCPUやGPUだけではなく「NPU」と呼ばれるAI処理に特化した機能が重要になってくる。

ハイエンドスマホ向けのプロセッサーは、アップルもQualcommも、そしてGoogleも、すべてがすでに「強力なNPU」を搭載するようになっている。これまでは音声認識や写真加工などに使われてきたが、今後はオンデバイスAI処理への活用がさらに進むと見られているので、NPUはさらに強化が進む。今年の後半に出てくるハイエンドスマホでは、“オンデバイスAIでなにができるのか”が強くアピールされることになるだろう。

ミドルクラス以下の製品向けのプロセッサーでもNPUの活用は進むが、Googleも「まずはハイエンドが中心であり、徐々に安価な機種へも拡大していく」と予測している。すなわち、ハイエンドスマホの差別化点は、当面“オンデバイスAIの活用”になりそうだ。

逆にいえば、オンデバイスAIでなにができるかを、機能としてわかりやすく示すことが重要になってくるわけだが、開発には相当のコストもかかる。それができるメーカーは、アップルやGoogle、サムスンなどの大手が中心になってくるだろう。

そうでないメーカーは、デザインやUIなど、ミドルクラスでもアピールしやすい要素で勝負することになるのではないだろうか。

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