新国立劇場によるオリジナルの全幕バレエ『アラジン』。5年ぶりの再演で、観客を冒険の世界へ

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新国立劇場によるバレエ『アラジン』が開幕した。世界的振付家で新国立劇場舞踊芸術監督も務めたデヴィッド・ビントレーによる振付で、2008年に同劇場オリジナルの全幕バレエとして世界初演された作品だ。世代を超えて親しまれているエキゾチックな冒険譚、その魅力を余すところなく伝えるだけでなく、多彩な踊りと目を見張るようなマジカルな仕掛けで客席を夢中にさせる舞台だ。6月14日の初日を前に実施された舞台稽古では、ビントレーの振付に真摯に取り組むダンサーたちの姿と、観客を壮大な冒険物語の世界へと誘う美しい舞台空間が立ち上がった。

取材日にタイトルロールを演じたのは、福田圭吾。2019年の上演時に初主演、今回が5年ぶり二度目のアラジンだ。すでに2023/2024シーズンをもってバレエ団を退団すると発表、この『アラジン』が新国立劇場での最後の大舞台となる。第1幕冒頭のアラビアの市場の場面から、福田は誰よりも明るく朗らかな空気をまとい、キラキラと主役としての存在感を放つ。放っておいたら何をしでかすかわからない、好奇心の塊のようなキャラクターも魅力的、皆を物語の世界へとぐいぐい引っ張ってゆく。

アラジン=福田圭吾(撮影:鹿摩隆司)

市場で出会った魔術師マグリブ人(中島駿野)の誘いにのり、砂漠へと向かったアラジン。マグリブ人に背中を押され足を踏み入れたのは、壮大でモダンな装置によって表現される洞窟。そこではオニキス、パール、サファイヤ、エメラルド、ルビー、ダイヤモンドなどのさまざまな宝石の踊りが展開される。第1幕から早々に、優美で華やかな、バレエでこその魅力が詰まった見応えある場面が続く。次々と登場するソリストたちの活躍で、新国立劇場バレエ団の層の厚さ、多彩な個性を実感させられる。

アラジン=福田圭吾 プリンセス=池田理沙子(撮影:鹿摩隆司)

洞窟でマグリブ人が失くしたという古いランプを見つけたアラジン。ピンチを脱するためにランプをこすると、いよいよランプの精ジーンの登場だ。このバレエで最もキャッチーな、子どもならずとも思わず声を上げたくなる超自然的出現シーンは、本作の大きな見どころのひとつ。この日ジーンを演じた木下嘉人は、全身真っ青な出で立ちだけでも無敵な雰囲気だが、男性舞踊手ならではの大技を次々と繰り出し、場の空気を支配する様子がとてつもなく頼もしい。「何でも願いを叶える」という彼の存在あっての物語、その世界観を強烈に印象付ける役柄だけに、別日程でこの役を演じる井澤駿、渡邊峻郁の活躍にも注目を。

ランプの精ジーン=木下嘉人(撮影:鹿摩隆司)

第1幕終盤、ようやくアラジンの前に姿を見せたプリンセス。演じる池田理沙子は、生来の可愛らしい雰囲気と透明感が魅力、皇帝の娘という役柄にぴったりだ。大胆不敵なアラジンに魅せられていく様子を丁寧に演じ、ビントレーならではの手の込んだ、難易度の高いパ・ド・ドゥも、福田と息を合わせ、豊かな表情で紡ぎ上げる。

ジーンの助けと洞窟で得た財宝をもってプリンセスとの結婚を許されるアラジンだが、冒険はまだまだ続く。たびたび皆の目を釘付けにするジーンの登場、魔法のじゅうたんなどの独創的な仕掛けが、観る者の目を釘付けにする。どんどん立派な青年に成長していくアラジン、そのルーツは中国にあるそうだが、中国風の壮麗な音楽や、祝いの場を盛り上げるダイナミックな獅子舞、龍舞の登場で、舞台の彩りはより鮮やかに。もちろん、全編に散りばめられた、“ビントレー節”ともいうべき、複雑な、それゆえに様々な情感、色合いを表現し得る魅力的な振付と、個性あふれるダンサーたちの活躍こそ、この舞台の最大の魅力。アラジン役は福田のほか、福岡雄大、奥村康祐、速水渉悟が、プリンセス役は池田のほか小野絢子、米沢唯、柴山紗帆が配され、全4組が主役カップルを日替わりで競演、それぞれの魅力で、それぞれの感動をもたらすはず。指揮はポール・マーフィー、冨田実里が日替わりで担当。演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。

プリンセス=池田理沙子 アラジン=福田圭吾(撮影:鹿摩隆司)

新国立劇場は本公演で、文化芸術に触れる機会が少ない子どもたちを招待する「新国立劇場こども観劇プログラム」に取り組んだという。吉田都舞踊芸術監督は、舞台稽古の見学会に参加した賛助会員たちを前に「初めてバレエを観た子どもたちがどういうふうに感じてくれるのか。想像するだけでワクワクしている」と思いを述べた。エンターテインメント性をたっぷり盛り込みつつ、バレエとしての完成度、芸術性をしっかりと確立した舞台だけに、子どもたちや初めてバレエに触れる人にとっても最適の舞台だ。

取材・文:加藤智子

<公演情報>
新国立劇場バレエ団『アラジン』

振付:デヴィッド・ビントレー
音楽:カール・デイヴィス
美術:ディック・バード
衣裳:スー・ブレイン
照明:マーク・ジョナサン

出演:新国立劇場バレエ団

指揮:ポール・マーフィー(6月19日、21日、22日18:30、23日) / 冨田実里(22日13:00)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

2024年6月14日(金)~6月25日(日)
会場:東京・新国立劇場 オペラパレス

チケット情報:
https://nntt.pia.jp/event.do?eventCd=2314462

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/aladdin/

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