アングル:仏財政危機への懸念高まる、市場は英トラス政権の二の舞を警戒

Yoruk Bahceli Dhara Ranasinghe

[14日 ロイター] - フランスは6月末から投票が始まる国民議会(下院)選挙を前に、積極財政に前向きなに極右政党と左派政党が勢いを増してマクロン大統領の中道政権に圧力をかけており、投資家は財政危機のリスクを視野に入れ始めた。債券市場では、大型減税を盛り込んだ「ミニ予算」で市場を混乱させた英トラス政権の二の舞への警戒感が広がり、フランス国債は指標となるドイツ国債との利回り差が急拡大している。

世論調査で首位を走る極右政党「国民連合」(RN)はまだ詳細な政策を発表していないが、これまで定年退職年齢の引き下げ、減税、財政支出拡大を支持してきた。

一方、新たに結成された左派連合は14日、定年を引き下げ、給与をインフレ率に連動させる方針を表明し、新政権下で支出が拡大するとの見方が強まった。左派連合は12日の世論調査で支持率がRNに次いで2位だった。

フランスは5月末、財政赤字拡大を理由に米格付け大手SPグローバルから格付けを引き下げられており、議会選を控えて財政の持続可能性に対する懸念が一段と強まった形だ。

投資家はこうした動きに対して率直に反応した。フランス国債は14日にユーロ圏国債の指標となるドイツ国債に対する金利の上乗せ幅が2017年以来最大となる82ベーシスポイント(bp)程度に拡大。週間では11年のユーロ圏債務危機以来の大幅な拡大を記録した。

トゥエンティーフォー・アセット・マネジメントのゴードン・シャノン氏は、22年に当時のトラス英首相が打ち出したミニ予算で英国債相場が急落し、イングランド銀行(英中銀)が市場介入に踏み切らざるを得なくなった例を挙げ、「今や焦点は目先の危機の可能性に移った。(市場は)英国のミニ予算と同じような出来事が起こるリスクを織り込んでいる」と述べた。

フランスのルメール財務相は14日、有権者にマクロン大統領の中道派候補を支持するよう訴え、極右か左派のいずれかが選挙で勝利した場合の金融危機のリスクについて警告を発した。

フランスは14日に債務不履行に備えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率が20年5月以来の水準に跳ね上がり、借り入れコスト上昇の影響が銀行に波及。BNPパリバ、クレディ・アグリコル、ソシエテ・ジェネラルの国内大手3行の株価は9日からの週に12~16%下落し、14日にはいずれも少なくとも4%下げた。

フランスの国営機関は起債をキャンセル。政府は16日からの週の国債入札で調達規模を通常よりも縮小する計画で、市場の混乱は既にフランスの資金調達計画に影響が及んでいる。

<他のユーロ圏諸国に影響拡大か>

債券投資家は、無謀と思われる財政政策を採る政府に対してより高いリターンを要求し、アナリストから「自警団」とも呼ばれる。

PGIMフィクスト・インカムのギレルモ・フェリセス氏は「英国はミニ予算の洗礼を受け、米国は昨年夏に債務上限問題で国債利回りが急上昇した。ユーロ圏ではまだこうしたことは起きていない」と述べた。

シンクタンクのモンテーニュ研究所は22年の議会選挙に向けてRNが打ち出した政策を分析。完全に実行された場合、フランスの財政赤字比率が3.5%ポイント増加し、1000億ユーロ以上のコストがかかると試算した。この財政負担は英トラス政権の減税案よりもはるかに大きい。

RNのバルデラ党首は14日、数日中に党の綱領とその資金調達方法について詳しく説明すると述べた。財政規律については、財政を逼迫させた現政府を非難する以外、今のところ曖昧な態度をとっている。

プライベートバンク、ベレンベルクのホルガー・シュミーディング氏は先に「極端な場合、(ドイツ国債との)利回りスプレッドがトラス政権時並みに拡大するリスクもある」と警鐘を鳴らした。

英国の10年国債利回りは財政危機の最中に1週間足らずで100bp余りも跳ね上がったが、フランス国債の9日からの週の利回り上昇幅は6bpにとどまっている。

フランスの財政悪化に対する懸念が、ユーロ圏に広がる可能性を示す兆候が早くも表れている。イタリア国債のドイツ国債に対する利回りの上乗せ分は14日に159bpと、2月以来の高水準となった。ユーロは14日に対ドルで1年余りぶりの安値をつけ、ユーロ圏の銀行株は9日からの週に10%近く下落している。

ユーロ圏の金融体制は、10年以上前のユーロ圏債務危機時に比べればはるかに強固になっており、欧州中央銀行(ECB)は危機発生時には新たな国債買い入れツールで介入すると繰り返し表明している。

しかしスイス再保険のマクロ戦略責任者パトリック・サナー氏は、このツールが適用されるには、EUの財政ルールを順守する必要があるため、実現可能性について疑問が生じるだろうと指摘した。

一方、フランスでRNを含む連立政権が誕生した場合、どのような行動に出るかまだ分からないと慎重な声もある。イタリアは昨年、極右のメローニ首相が就任後に穏健化したこともあり、国債がアウトパフォームした。

JPモルガン・アセット・マネジメントのイアン・スティーリー氏は、RNの歳出計画はEUの財政赤字規則によって抑制されると見ている。「27年の大統領選挙を控え、RNはより慎重な財政スタンスを取る可能性が高く、市場もRNを抑制する重要な力になるだろう」と、やや楽観的な立場だ。

© ロイター