Jリーグで3年ぶりのゴール!「自分は食らいついていく立場」の松下佳貴が、ベガルタ躍進の鍵を握るかもしれない

[J2第20節]仙台 2-2 長崎/6月16日/ユアテックスタジアム仙台

J2も第20節から後半戦に突入した。今節で屈指の好カードが、4位・仙台と2位・長崎の上位対決だった。下馬評通り、上位チーム同士の試合らしい強度の高い見応えのある戦いが展開された。

先手を取ったのは長崎。15分、FWエジガル・ジュニオがPKを冷静に決める。その後も長崎が強力な前線のタレントを活かして優位に試合を進めたが、前半の途中あたりから仙台も前進できるようになり、決定機を作り出す。

そして後半に入ると、仙台が攻撃のギアを上げて試合の主導権を握り、55分にMFオナイウ情滋のクロスからMF郷家友太がヘディングシュートを決めて同点に追いつく。

終盤まで1-1のままで、大きく試合が動いたのはアディショナルタイムだった。90+3分、仙台が勝ち越す。GK林彰洋のロングフィードを受けたMF有田恵人がクロス。これに途中出場のFW中山仁斗がヒールで触り、こぼれたボールに飛び込んできたのは、途中出場のMF松下佳貴だった。

「恵人から横パスが入った時に、仁斗君がどう関わるか分からなかったのですが、横を見ながら来たボールに対応しようと思っていました。仁斗君が触ったことで、自分の前のちょうど良いところにボールが来て、触ってくれたおかげで冷静になれる時間ができて、良い状態でシュートを打てました」と松下は左足を振り抜き、シュートはゴール左隅に突き刺さり、仙台サポーターは大歓声をあげた。

【動画】松下佳貴のJリーグ3年ぶりゴール!
「ゴールを取れるのは嬉しいですし、あれだけの声援を受けながらの試合で、あの時間帯に決めたゴールは特別でした」。この日も1万1278人と、J2としては非常に多くの観客で埋まったスタンドが歓喜に沸き、チームメイトからもみくちゃにされた松下も喜びを爆発させた。

ところが90+6分、長崎がラストワンプレーをモノにする。MF中村慶太のクロスからFWフアンマ・デルガドがヘディングシュートを決めて、試合は2-2の引き分け。

あと少しのところで勝点2を失った仙台。「悔しいですね。スタートから出た選手があれだけハードワークしていたので、どうにか勝利を掴み取りたかったです」と、松下も悔しさを滲ませた。

松下のゴールは、Jリーグでは2021年6月23日のJ1第19節・清水戦以来、実に3年ぶりのものだった。圧倒的なテクニックを誇り、19年に仙台に移籍してからは主力として活躍してきたが、ここ数年は怪我に泣かされ、先発出場する試合も減少。今季もベンチ外となる試合が多かった。

しかし、そんな松下が調子を上げていることを、森山佳郎監督はしっかり見ていた。「松井(蓮之)が入ってきて、最初はずっとサブ外のことも多かったのですが、それでもずっと腐らず、ずっと練習でも力を発揮してくれました。最近はスタメンで起用される試合も何試合かあったなかで、我々から見ると1試合ずつ、少しずつトップフォームに近づきつつあるというところです」と、指揮官は調子を上げているのを感じ取っていた。

【PHOTO】サポーターが創り出す圧巻の光景で選手を後押し!Jリーグコレオグラフィー特集!
「僕が仙台に来てから長いですけど、トータル的に見れば苦しい時間、はがゆい思いをしたシーズンが多かったです。ネガティブな考え、自分のせいでという考えを持ってしまっていたこともありました。それをこのゴールで、全て払拭できるかというと簡単にはできませんが、一つ結果として残せたのは、自分の自信にもなります。

今年はゴリさん(森山監督)が来て、チーム全員一つになって同じ方向を向いて戦う力を強く感じます。このグループにいられるのが幸せで、今年のチームでみんなで戦っていけていて、充実した時間を送れていますね」と、苦しみ抜いたベテランは、今季なかなか出場機会に恵まれなかったなかでも手応えを感じていた。

森山監督は「ボランチの争いもまた激しくなっていて、(工藤)蒼生君も復帰しましたし、競争しながら、レベルアップしながら、またチームの力になってくれれば」と、松下が競争しながら活躍を見せてくれることに期待を寄せていた。

「自分は食らいついていく立場だと思うので、自分の良さをさらに出していかないと、簡単に試合に絡めなくなります。蒼生も復帰してきて、さらに競争が激しくなっていますし、どの選手もクオリティが高くて良い選手が多くて、一緒にプレーすると心強いのですが、ライバルとしては手強いです。逆に良い競争をしていければ、チーム力は上がって行くので、自分は自分の良さを出していきたいと思います」と、松下は自らの持ち味を活かして、この激しい競争に割って入ろうとしいている。

ここ最近の仙台では、ベテランMF長澤和輝と松井がボランチのレギュラー争いで一歩リードしているが、松下や工藤蒼が再び試合に絡んでくれば、戦い方にバリエーションをつけられる。復活ののろしを上げた松下は、チームの躍進の鍵を握る選手になるかもしれない。

取材・文●小林健志(フリーライター)

© 日本スポーツ企画出版社