“富士見マンション”解体、一体何が? 近隣住民困惑、地元不動産屋からは過去の訴訟巡る証言も

マンションを眺める人も多く訪れた【写真:ENCOUNT編集部】

通行人は写真撮影や文書を読み込む様子も

建設が完了したマンションが急きょ取り壊しに――。そんな耳を疑うようなニュースが世間をにぎわせ、近隣住民を困惑させた。積水ハウス(大阪市)が建設したマンション「グランドメゾン国立富士見通り」で、最寄りはJR国立駅(東京・国立市)だ。地元商店街から富士山が見られる眺望で知られていたが、今回のマンション建設によって景観が損なわれるとする懸念が上がっていた。今回、同社は「著しい影響がある」と景観を考慮したことを認め、異例の撤回に至った。急転直下の混乱ぶりの背景に迫った。

同マンションは富士見通りを通って、10分ほどの場所に存在する。10階建てで18戸が入居予定だった。

今月10日午後1時ごろ、マンションに到着するとすでに多くの報道陣が集まり、カメラを向けていた。現場は片道1車線の道路に面し、近隣住民や学生などが狭い歩道を行き来していた。富士見通りの名の通り、富士山を望むことができることが由来となっているが、当日は天候から見ることはできなかった。

取材時、現場は白い工事用のフェンスで覆われており、警備員が配置。フェンスにはそれぞれ6日と7日付で「事業中止について」と「建物解体に向けた準備のお知らせ」と題された文書が貼られ、通行人がよく読み込む様子や写真を撮影する様子が見られた。

今回、解体することとなった理由とは。積水ハウス広報室はENCOUNTの電話取材に「眺望など周辺に与える影響を鑑みて決定した」と説明。国立市や周辺の商店街との協議はなく、社内で決定したと話した。入居予定者への対応については「現在お詫びして、別の入居をご案内するなど対応しておりますが、詳しいことは個々人とのやりとりなのでご容赦願いたい」とした。また、一度完成した建物を解体するのは積水ハウスの中で初めてだという。

地元の不動産は「建築の基準をしっかりと決めておくべき」と指摘

今回の騒動について、実際に現場を訪れた人は釈然としない様子。

報道を受け、現場を見に来たという60代の女性は「引っ越しがどんなに大変か分かっているだけに、ここに入るつもりだった人たちに配慮してもらいたい」と神妙な表情を浮かべた。また、80代の男性は「百聞は一見に如かず」と八王子から訪れたといい、「壊すのはもったいない。問題が起こるんじゃないかっていうのは、おそらくいろいろ社内で意見が出たはず。今回の件で他社も建てづらくなるのでは」と話していた。

店を営む地元の人々も困惑を示した。国立旭通り商店会の関係者は「何か理由があるのだろう。まだ何も聞いていない。うちの商店街では何人か、なんで壊さなきゃいけないんだろうねっていう話はしていた」と打ち明けた。

駅前で長年不動産屋を営んでいる男性に話を聞くと、文書が掲示される2日前から解体するという話は聞いていたといい、以前にも国立周辺でマンション建設に関する訴訟があったことなどを挙げた上で、「前もって市や行政が、都市計画など国立での建築の基準をしっかりと決めておくべきだった」と見解を示した。関係者から解体が終わるのは8月末になるのではないか、とも聞いたという。

その後、今回の騒動を受け、積水ハウスは6月11日付で文書を発表。「本事業につきましては、計画当初より日本を代表する山である富士山の富士見通りからの眺望に対しても多くの声をいただき、地域住民の皆様及び国立市とも十分な協議を重ねてまいりました」とした上で、「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定いたしました」と経緯を説明した。

そして「本事業は適法に手続きを進め、法令上の不備はございませんが、富士見通り、特に遠景からの富士山の眺望に関する検討が不足していたことが引き起こした事態であり、ご契約者様及び地域の皆様にさらにご迷惑をおかけすることを避けるべく、建物竣工直前ではありましたが、中止を判断いたしたものです」と法的な問題はなかったことを強調。「建物竣工直前の本事業中止により、本マンションのご契約者様には多大なるご迷惑をおかけいたしましたことを改めて心よりお詫び申し上げます」と謝罪した。なお、今後の利用計画については未定とした。

景観を巡って起こった今回の騒動。解体時期など詳細については決定次第、現地に掲載するとされており、今後のマンション跡地がどう利用されるかにも注目が集まる。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム

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