前回大会での心停止から1100日…復活の先制弾を決めたエリクセンに各方面から賛辞と祝福!「夢のよう」「それはサッカーよりも重要なもの」

現地時間6月16日に行なわれたEURO2024グループリーグ第2節、デンマーク代表は17分にクリスティアン・エリクセンのゴールで先制するも、77分に不運な形でスロベニア代表のエリク・ヤンジャに同点弾を許して1-1の引き分けに終わっている。

終盤に入って勝点3を取り逃したことはデンマークにとってネガティブな結末となったが、一方でこの一戦は彼らにとって忘れられないものにもなった。とりわけ、スローインからヨナス・ヴィンドの巧みなアシストを受けてゴール左隅に先制ゴールを決めたエリクセンにとっては、感慨深い90分間となったのは間違いない。

3年前の同大会、グループリーグのフィンランド戦で試合中に突如、心不全を起こしてピッチ上に昏倒し、世界に衝撃を与えたエリクセン。幸い、心停止に陥った彼を蘇生させたドクターだけでなく、チームメイトたちの適切な処置のおかげもあって大事に至ることなく、以降は順調に回復を見せ、一時は絶望視された選手としての復活も果たして代表にも復帰。2022年のカタール・ワールドカップに続き、欧州の大舞台にも再び上がることができた。
試合後、偉大な“帰還者”は、3年前のことについては「今回の大会と、前回とは全く違うストーリーだ」として「サッカー以外のことは何も考えていなかった」とだけ語り、また「自信はあったが、ただプレーできることが嬉しかった。EUROでプレーすることはいつも特別だ」と述べている。そして、ゴールについては「EUROではまだ無得点だったことを意識はしていた。今日はチームを助けられたことが、ただ嬉しかった」と満足感を示している。

もっとも、チームのリーダーとして、「追いつかれたのは残念だ。先制し、勝てたと思ったのに、最後にポイントを失ってしまうのは、いつもフラストレーションが溜まるものだ。しかし、我々は勝点1を獲得した。まだ試合は残っており、ここから前進していかなければならない」と勝利を奪えなかったことを残念がり、今後に向けて気を引き締め直した。

一方、周囲はこのゴールに感動を覚えており、英国公共放送『BBC』では、コメンテーターを務める元スコットランド代表ストライカーのパット・ネビンが、「夢のようだという表現があるが、これがまさにそうだ。あのゴールには感動的な物語が秘められている。2021年の出来事は非常にショッキングであり、サッカー界全体が恐怖に包まれたが、そこからの医療体制の改善は素晴らしい。そしてエリクセンは復帰し、今彼がこのレベルでプレーしているのを見るのは、大きな喜びだ」と、感激を隠していない。 デンマークの週刊紙『Weekendavisen』の記者であるアスカー・ボイ氏は、3年前のことを「スタジアムでそれを見るのは恐ろしかった。家族の悲劇のようなものだった」と回想した上で、「もちろん今、彼がゴールを決めるのを見るのは非常に特別なことだ。もっとも、エリクセン本人はそれを言わないだろう。しかし、デンマークのファンにとってそれは、本当に本当に特別なことだ。エリクセンは非常に人気がある。そのことは、彼という選手について多くを物語っている」と『BBC』に語っている。

また、元イングランド代表で、マンUの黄金期のメンバーのひとりであるガリー・ネビルも、英国の放送局『ITV』で「エリクセンのゴールは、前半のベストモーメントであり、それはサッカー界の偉大な選手のひとりによって生まれた。サッカーには人々の意識を高めるパワーがあるが、あの瞬間は人々の心に深く響く出来事であり、それはサッカーよりも重要なものだった」と絶賛した。

英国の著名なジャーナリストであるピアーズ・モーガン氏は、自身のSNSに「信じられない話だ……EURO2020においてピッチ上で心停止を起こし、もうサッカーは二度とできないと思われたあの日から1100日後、エリクセンがEURO2024でデンマーク代表のためにゴールを決めた……素晴らしいことだ」と投稿している。

スポーツ専門チャンネル『ESPN』の英国版も、SNSで「エリクセンがピッチ上で心停止を起こした時、彼は救急隊員に自分のスパイクを保管しておくように言った。もう二度とプレーできないと、彼は思ったからだ……これがサッカーというスポーツが描いたシナリオだ」と、今回の“ドラマ”を感動的に伝えた。
なお、エリクセンはこの一戦の「マン・オブ・ザ・マッチ」にも選定されたが、『BBC』は「90分が経過し、最高殊勲者として彼の名前が発表されると、母国サポーターが集まるエリアからは、もう一度大きな歓声が上がった。デンマーク人にとって、試合は望んだ結果ではなかったかもしれないが、これは故郷で見守っていた人々にとって美しい瞬間だった」と綴っている。

もちろん、同メディアはエリクセンを「感動のドラマ」の主役としてのみ評価するのではなく、「前半のデンマークの8本のシュートのうち、彼は7本に直接関与しており、彼自身も4本のシュートを放った他、チャンスを3つ創り出すなど、どの選手よりも多くの貢献を果たした」と、そのプレーがいかに効果的だったかにも言及した。

英国の日刊紙『Daily Mail』も、このマンチェスター・ユナイテッド所属のMFを、「昨季、クラブではあまり多くの試合に出場しなかったものの、エリクセンは依然としてデンマークを代表するフットボールの名手である。彼のゴールは見事だったが、前半のデンマークの8つの攻撃のうち、7つで重要な役割を果たした」と、その貢献ぶりを称賛している。

構成●THE DIGEST編集部

© 日本スポーツ企画出版社