岐路に立つ「自家製漬物」 福島県内、営業許可制で設備改修進まず

生産者による手作りの梅干しや野菜のぬか漬けなどが並ぶ福島市の直売所「ここら」。改正食品衛生法の完全適用で自家製漬物は減少傾向にある

 福島県内の直売所で人気の自家製漬物が、店頭から消えかねない事態に直面している。改正食品衛生法の完全適用によって今月から「営業許可」が必要になり、設備の改修に手が回らず出荷を断念する生産者が相次いでいるためだ。古里の味として親しまれてきた自家製漬物の減少は直売所の売り上げ減にも直結しており、関係者は「郷土の食文化が衰退してしまうのでは」と危機感を募らせている。

 「いろいろな味付けの漬物を買って、家で再現するのを楽しみにしていた。種類が減ってしまうのは残念だ」。JAふくしま未来が運営する福島市の直売所「ここら」。梅干しや野菜のぬか漬けなどが並ぶ店頭で、手作り漬物のファンだという女性(76)は切々と語った。

 改正法は2021年6月に施行された。漬物の製造・販売が許可制になり、許可を得るには水回りや冷蔵庫などを食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」対応に切り替える必要がある。

 改正法前からの製造者に設けられた経過措置は今年5月末で終了し、営業許可がないと販売できなくなった。

 直売所、売り上げ落ち込む

 同JAによると、「ここら」に手作り漬物を出荷している生産者は法改正前には年間で70人以上いたが、経過措置の期間中に20人近く減った。高齢の生産者が個人で製造していたケースが多く、ハサップ対応の設備を整えるための費用を懸念して出荷をやめる事態が相次いだという。直売所全体の売り上げも法改正前と比べ、年間30万円ほど落ち込んだ。

 特に減少幅が大きいのが梅干しで、JAの担当者は「生産工程がシンプルな分、大々的な設備を整備する必要性を感じられないのではないか」と分析する。同市の佐藤キヨ子さん(79)も15年続けてきた梅干しの出荷をやめた生産者の一人。「年齢を考え、今からお金をかけて設備を整えることはできない」と考えたという。「もしものことで命を落とす人が出てからでは遅い。仕方のないことだと思う」と制度の必要性を理解する一方で「それでも、自分の梅干しを楽しみにしてくれていた人たちに、もう食べてもらえないのは寂しい」と複雑な思いを抱えている。

 経過措置の期間中、JAも生産者の「営業許可」取得に向けた講習会を開くなどの対応を取ったが「資金面を理由に廃業を決める人を止めるのは難しい」のが現状だという。

 同JA産直課の須田和弥課長は「安全性を確保するために大変重要なことだが、生産者の意欲を保つための支援が必要だったのではないか」と指摘。「食文化が衰退する要因になってしまうのでは」と警鐘を鳴らす。(江藤すず)

 ■改正食品衛生法 2012年8月に北海道で発生した白菜の浅漬けによる「O157」集団食中毒を発端として、21年6月に施行された。県に届ければ製造・販売が認められる「届け出制」から「許可制」に変わり、許可を得る条件としてハサップ対応が求められるようになった。

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