刺さる魅力(6月18日)

 もしも現代に息を潜めて暮らす忍者がいたなら、猪苗代湖の光景に目を細めるかもしれない。毎年夏に水草のヒシが繁茂する。棘[とげ]が突き出た実を乾燥させれば、追っ手を撃退する「撒き菱」に。携帯用の非常食にもなる▼食用としての歴史は古い。でんぷんやたんぱく質を含み、縄文人の貴重な栄養源となった。今も薬膳、漢方に用いられる。猪苗代湖では、さまざまな要因で大量に増殖し、水草の腐敗に悩まされてきた。地元企業が逆手に取り、実を収穫して健康茶「ひし茶」を売り出した。収益の一部を水環境保全に役立てている。厄介者を地域おこしの主役に変えた▼関係者はオーストラリアなど海外で試験的にお茶の販売やPRを始めた。関心は高いという。忍者が愛用した実を煎じて湖畔で一服し、いざ城下町へ―。武家文化とコラボすれば、新たな観光資源になる。自然の恵みと歴史を「武器」に、さらに訪日客を呼び込みたい▼ヒシは奇抜な形状から魔よけとして知られ、繁殖力の強さから縁起物にも。食や道具だけではない、多彩な顔を持つ。健康志向が強まり、環境保全を求める声は高まる。エコな時代に生きるあなたの心にも、その魅力はきっと刺さるはず。<2024.6・18>

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