相続相談は弁護士か税理士か?…「司法書士」に依頼すべき主な〈3つのケース〉【司法書士監修】

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相続に関する相談は、弁護士、税理士、司法書士などが相談窓口となることが多いです。弁護士はドラマや漫画でも題材となるため、相談内容をイメージしやすいでしょう。税理士についても、相続税などの税金に関する相談ができると認識している方は多いでしょう。しかし、司法書士については、どのような仕事をしているのか、何を相談できるのか、はっきりイメージできない方もいるかもしれません。実際には、相談内容によっては弁護士や税理士ではなく、司法書士に相談した方が良いケースもあります。この記事では、東京司法書士会司法書士の寺島能史監修のもと、司法書士に相続について依頼できること、依頼できないこと、そして司法書士に相談すべきケースについて解説します。

相続で司法書士に依頼できること

相続では遺産分割協議や不動産の名義変更など様々な手続きを行う必要がありますが、司法書士にはこれら多くの手続きを依頼することができます。

相続人・相続財産の調査

相続が発生した場合、遺産分割協議や不動産の名義変更を行う前提として、まずは相続人・相続財産の調査を行う必要がありますが、これは司法書士に依頼することができます。

相続人の調査は、亡くなった方の戸籍を死亡から出生まで遡って相続人を確認していくのですが、戸籍謄本を読むのに慣れていない方にとって戸籍の収集・相続人の判別は難しい作業です。

また、相続財産が複数の銀行預金、株式、不動産など多数にわたる場合、財産の調査には結構な手間がかかります。

相続放棄をする場合は相続から原則3ヵ月以内という期限がある以上、相続人・相続財産の調査もこの期間内に行うことになります。後になって新たな相続人・相続財産が判明したという事態を防ぐためにも、相続が発生した早い段階で司法書士にこれらの調査を依頼すると良いでしょう。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議の作成を司法書士に依頼することができます。

法定相続分で相続しない場合は、相続人同士で遺産分割協議を行い、その内容を「遺産分割協議書」としてまとめます。

遺産分割協議書は、相続財産の名義変更のための必要書類や、後のトラブルを避けるための証拠となる重要な書類です。明確な様式はないのですが、亡くなった方の氏名、相続人の証明捺印など最低限必要な記載があります。

形式に不備があったため遺産分割協議書として使えない、という事態を防止するため、不安がある方は司法書士に協議書の作成を依頼すると良いでしょう。

私がご相談を受けてきた中でも、既にご自身で遺産分割協議書を作成されて持参される方もいらっしゃいました。しかし、なかには法務局や金融機関などが要求する遺産分割協議書の最低限の記載要件が漏れてしまっているケースもあります。そうなってしまうと相続手続きを進められなくなってしまい、遺産分割協議のやり直しをする必要がありますので注意が必要です。

不動産の相続登記

不動産を相続した場合は名義変更のための相続登記が必要になりますが、この作業は司法書士に依頼することができます。相続登記の申請自体は司法書士に依頼せず、自身で行うことも可能です。

ただ、相続登記を申請するには、戸籍謄本・遺産分割協議書などの必要書類の収集や登記申請書の作成など、事前知識がなければ難しい作業が多くなります。

また、法改正により令和6(2024)年4月1日以降は相続登記が義務となり、相続があったことを知ってから3年以内に相続登記を申請しなければならないうえ、この義務に違反すると罰則が科せられるため早い段階で相続登記の申請が必要となります。

相続財産に不動産がある場合は、早めに相続登記の手続きを司法書士に依頼した方が良いでしょう。

生前対策

相続が発生した際に残された相続人の負担を減らすための対策として、不動産の生前贈与や遺言書の作成を司法書士に依頼することができます。また、相続が発生する前に財産を管理する制度として、成年後見・任意後見制度、家族信託制度が挙げられます。このような専門的な生前対策も司法書士に依頼することができます。

相続で司法書士に依頼できないこと

前述の通り、司法書士には多くのことを依頼できますが、一部、業務範囲外のため次のようなケースでは司法書士に依頼することはできません。

相続税の申告

相続税の申告など税金関連は税理士の業務範囲であるため、司法書士は扱うことができません。

しかし、司法書士でも一般的な相続税の制度の説明をすることはできます。また、相続業務を数多く受託している司法書士事務所であれば、相続税の申告が必要な場合は提携税理士と連携してくれることが多いでしょう。

相続紛争の代理人

相続であっても、相続人同士で争いがあるケースでは、司法書士が対応することができないため、弁護士に依頼することになります。

しかし、司法書士でも民法など相続に関する法律の説明をすることはできます。また、相続業務を数多く受託している司法書士事務所であれば、他の相続人との代理交渉や遺産分割調停・審判が必要な場合は提携弁護士と連携してくれることが多いでしょう。

司法書士に相談した方がいいケース

司法書士の業務範囲は広いため多くのことを相談できますが、特に次のようなケースでお悩みの場合は、無理に自身で解決しようとせず司法書士に相談した方がスムーズに解決できることがあります。

相続の権利関係が複雑

相続人の数が多い、相続人同士が不仲、不動産が共有状態であるなど、相続の権利関係が複雑な場合は、初期の段階で司法書士に相談すべきです。

相続関係が複雑だと、相続人・相続財産の調査の難度が高く、また、遺産分割協議が上手くまとまらず争いに発展する、という事態になりかねません。特に、相続が発生後、相続人の一部が死亡してさらに相続が発生する「数次相続」のケースでは、1回目の相続と2回目の相続を合わせて処理する必要があるため、より難易度が高くなります。

こういったケースでは、初期の段階で司法書士が関与すれば、法的な見地から的確に処理することができます。また、裁判手続きが必要な場合であっても、司法書士事務所では近接業務を取り扱っている弁護士と提携していることが多いので、必要に応じて弁護士への相談も誘導してもらえます。

財産に不動産がある

相続財産に不動産がある場合は相続登記が必要になるので、まずは「相続登記の専門家」である司法書士に相談しましょう。

上述の通り、法改正により令和6(2024)年4月1日以降は相続登記が義務となり、相続があったことを知ってから3年以内に相続登記を申請する必要があります。

また、これは過去の相続も対象となり、2024年4月1日より前に相続が発生した場合であっても、同日から3年以内に相続登記を申請することが義務となります。相続登記の申請は準備に手間がかかり、相続登記の申請書類の作成や必要書類も知識がないと難しいため、司法書士に依頼してすべて一任することでスムーズに相続登記を完了できます。

もし、途中で相続税の申告や裁判手続きが必要だと判明した場合には、適宜税理士や弁護士への相談をするという流れが効率の良い流れといえるでしょう。

生前対策をしたい

贈与・遺言・後見・信託などの生前対策が必要になる原因は様々ですが、最も多いのは「財産に不動産がある」ということだといえます。そして、不動産の相続についての取り扱い件数でいえば、相続登記の専門家である司法書士が一番多いといえるでしょう。

また、認知症などにより意思能力が減退した方の財産を守るために、裁判所から成年後見人として選任されている数で言えば、令和4年の裁判所の成年後見関係事件の概況によると、職種別では司法書士が約37%を占めるトップランナーです。

以上の理由から生前対策については、まずは生前対策に必要な業務を数多く取り扱っている司法書士に相談されることをおすすめします。

そして、生前対策についても上述と同様に、税金対策や裁判手続きが必要だと判明した場合に、適宜税理士や弁護士への相談をするという流れが効率の良い流れといえるでしょう。

相続相談で司法書士を選ぶポイント

司法書士に相談すると言っても、何処の事務所に相談すればいいか分からない、という方もいるかもしれません。

ここでは、司法書士を選ぶ際のポイントをご紹介します。

相談に対して真摯に対応してくれる

相談者の事情・希望をしっかりと聞き、専門的な内容も分かりやすい言葉で説明してくれる、相談者の目線に立った司法書士がおすすめです。

相談者の発言をさえぎり、難しい専門用語ばかりで自分の意見ばかり押し付ける司法書士では、その司法書士の意向で話が進み、相談者の希望が完全にかなえられない恐れがあります。

費用内訳の説明を丁寧にしてくれる

司法書士に報酬として支払う費用は、依頼先を選ぶに当たって重要な事項です。正式な依頼の前に明確な費用の見積もりを出してくれる司法書士を選びましょう。

相続登記などの手続きでは、必要書類を収集するための手数料が実費として発生します。あらかじめ見積もりを貰っておけば、事前の説明より高額の報酬になってしまった、といったトラブルを避けることができます。

相続に関する知識が豊富

相続の相談は、相続に関する知識・業務経験が豊富な司法書士がベストです。

上述の通り司法書士は多くの業務を扱うことができますが、基本的には自身の得意な分野に応じた業務を行うため、中には相続に関する業務の経験が不十分である司法書士もいます。

あらかじめ司法書士事務所のホームページを確認し、相続業務に関する口コミの有無など、実際に相続業務を数多く扱っていることを確認できる司法書士事務所を選びましょう。

東京司法書士会 司法書士

寺島 能史

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