海底近くの現場に潜入! 新上五島・若松大橋耐震工事 全国でも珍しい工法…来年2月に完了予定 長崎

中通島側の橋脚の補強工事現場=6月(西海建設提供)

 長崎県新上五島町の中通島と若松島を結ぶ若松大橋(全長522メートル)で、橋脚の耐震補強工事が進んでいる。筒状の鋼製パネルで橋脚を包み、海水を抜いて作業をする締め切り工法は、全国でも珍しいという。内部を見学する機会を得て、海底近くの現場に潜入した。

 3月中旬、若松大橋に立った。大小の島々が浮かび、風光明媚(めいび)で知られる若松瀬戸に架かる白い橋。手すりを越え、はしごや長い階段を下りて行くと、渦潮が迫ってきた。“筒”の内部は海面下のため冷えているかと思いきや、工具や照明の熱気がこもり暑い。下り立った底部はケーソンと呼ばれる台座の上で高さ約21メートル、水深約14メートル。フジツボが付着した跡があった。見上げるとぽっかり空いた入り口がかなり高い。
 県五島振興局上五島支所によると、橋は1991年に供用開始。橋げたを三角形の集合体「トラス構造」で補強したトラス橋で安定性が高い。耐震補強工事は県内で最大の地震(マグニチュード6.9)を想定していて、2021年6月に着工し4年目。来年2月完了予定という。西海建設(長崎市)・坂本組(新上五島町)特定建設工事共同企業体が受注し、費用は約13億円。

 作業の流れは、橋脚の上部で12分割の鋼製パネルをつり下げ、橋脚を囲むように直径約13メートルの輪に組み上げる。少し下ろしてその上に、新たな輪を連結する。13層で輪がケーソンに到達し固定。筒内部の海水をポンプで排出後、補強する。
 橋脚2本のうち、若松島側は完了しており、現在は中通島側に太い鉄筋を網状に張り、さらに約30センチのコンクリート層を巻き上げて太くする作業をしていた。

中通島側の橋脚を包む筒の内部。コンクリート床面はケーソンの上面。本来は海中にある場所。青い鉄筋で巻き上げた部分が橋脚=3月

 鋼製パネルの外は流れが速い海中だと思うと心地よくはなかったが、坂本組の主任技術者、近藤良輝さん(49)は「(筒が)まず壊れることはない。内部に若干の漏水はあるが対処できているので怖くはないですよ」と説明した。
 西海建設の監理技術者、又野友之輔さん(42)は「工法の前例が乏しい上、潮流が速い。状況調査が特に困難だった」と話す。同企業体は筒とケーソンの接着部に水中でも硬化するパテ(粘土のような目地材)を使う手法を発案。橋から約50メートル直下の現場に、生コンクリートの品質を保ちながら送り込む技術など知識と技を結集させたという。
 現場の一般見学はできないが、橋脚が包まれている光景は若松島の「潮の香薫る公園」などから望むことができる。自然豊かな若松島や日本遺産の石塔群がある日島(ひのしま)の観光を兼ねて、今まさに進行中の希少な工事の様子を眺めてはいかが。

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