デジタルサイネージジャパン2024の注目ブースからみる新たな傾向と未来[江口靖二のデジタルサイネージ時評] Vol.93

今年もデジタルサイネージジャパン(以下:DSJ)が6月12日から14日の3日間、幕張メッセで開催された。来場者は12万4,482人(Interop Tokyoなどの同時併催展イベントを含めた総数)で、昨年比で5,374人の増加となった。確かに会場内は昨年以上の熱気に包まれていた。

今年の傾向としては、LED関連の展示が非常に目立つようになったことだろう。これはLEDビジョンが大型であるものが多いというのもあるが、やはり50インチから100インチ以上のサイズのサイネージがLED化している点からもうかがえる傾向だ。小型のものであってもキューブや球形などの異型のディスプレイはLEDの独壇場である。

こうした傾向を受けて、来年のDSJ2025ではLEDディスプレイを軸にした新企画による、展示とカンファレンスが新たに開催される予定である。これはディスプレイそのものやビデオプロセッサーなどのハードウエアだけではなく、XRやICVFXに代表されるバーチャルプロダクション、ソフトウエア、さらには空間設計なども含んだ幅広いものになりそうだ。

それではDSJ2024で特に気になったブースを2つ紹介したい。

LED TOKYO

圧倒的な規模感と存在感で訴求を行ったのがLED TOKYOだ。その訴求力は強烈なインパクトを持って来場者にアピールを行っていた。なかでも筆者が注目したいのは、最近あちこちで見られるようになったシースルー系のLEDディスプレイのプレゼンテーションの仕方である。

手前にシースルーのLEDビジョンを置き、透けて見える奥には、また別のLEDディスプレイでいわばマルチレイヤー化した展示構成であった。写真では伝わりにくいが、こうしたマルチレイヤー化によって、物理的な奥行き感や立体感を表現することができる。シースルーというのは奥に何かが透けて見えてはじめて意味をなす。通常は奥にはリアルなものがあるのだが、LED TOKYOブースでは奥にあるのもこれまたディスプレイなのである。この発想は様々な気づきを与えてくれていると感じた。

LED TOKYOブースは写真ではわかりにくいが圧巻の迫力。最も優れたブース演出に対して贈られるブースアワード2024のグランプリを受賞した
手前のメッシュ状のディスプレイとその奥にある通常のディスプレイの組み合わせ

伯東(Hakuto)

伯東ブースでは、一見しただけでは気がつかないような、最先端のLEDディスプレイが展示されていた。台湾のPanelSemi社の55インチAM(Active Matrix)Mini LEDディスプレイ「AH5512」である。W1,220×H750×D1.5mmで、重さは5.2kgだ。ピクセルピッチは1.27mmで解像度は960×540ピクセルだ。

Hakutoブース。INNOLUXとの共同出展

この1.5mmの厚さと、55インチで5.2kgという軽さ、そしてフレキシブルがもたらす新たなロケーションへの実装の可能性に注目したい。なお本ディスプレイは9インチのタイルで構成されているという。これは輝点や滅点などの歩留まりの問題のようだ。またディスプレイ自体の厚さは1.5mmだが、制御回路部分の厚さは29.5mmあり、さらなる小型化を期待したい。

発熱もパネルの裏表ともにほとんど感じられない。制御回路部分が若干温かい程度だ。消費電力は最大で185Wで、このサイズと解像度としては少ないといえる。

AH5512の主要スペック
LEDパネル部分の厚さは1.5ミリと撮影しにくいほどの薄さ
裏面の様子。両サイドと下部にあるのは補強のためだけのパネル。設置環境によっては不要である。上部にあるのはAM制御回路で、ここの厚さが29.5mmある

現状の画質は、ピクセルピッチ1,27mm、解像度が960×540なので、55インチではFHDにも及ばない。見た感じの印象も、視認距離はそれなりに近くなるので、用途設置環境、視認距離によるが、正直今ひとつではある。2030年頃までにはピクセルピッチが0.3ミリになり、解像度が4Kになっていることを期待したい。

5.2kgのパネルを2点のワイヤーで吊るしている。この施工、設置方法は設置にかかるコストと時間を大幅に縮小できる

続いては、気になったセミナーを一つ紹介しておきたい。「現実と仮想の境界を超える:インターバースの空間デザイン」では、日建設計のDDL(Digital Design Lab)室長の角田大輔氏が登壇した。これまでの空間体験は、物理的な実態に基づいていたが、技術の進歩により、物理的な制約を超えた仮想空間での新しい体験が可能になった。この仮想空間は、独立して存在するのか、それとも現実とシームレスに連続するのかについての様々な仮説を提示した。また同社の本社ビルにあるXRスタジオの例も紹介した。建築とサイネージはますます近づいていくことが予見できる好セッションであった。

日建設計のDDL(Digital Design Lab)室長の角田大輔氏

DSJ2024で、これらのブースやセミナーを通じてわかるのは、LEDがキーワードであるということだ。LEDの進化によって、これまでディスプレイ化できなかった場所、映像によるコミュニケーションができなかった場所でそれが可能になっていく。

このイノベーションは広告や販促に代表されるような、これまでのデジタルサイネージの概念や領域を飛躍的に拡張していくに違いない。設置可能なロケーションの拡大による目途の拡大は、必ずロケーションベースのメディアであるデジタルサイネージのイノベーションをもたらすことになるだろう。

また、DSJを定点観測的に見ていると、今年はかつてないほど出展者の顔ぶれが大きく変化したように見える。DSJ開始当初からの出展者の姿はほとんどなく、代わってLED関連企業が増加した。そしてその多くを占める中国、台湾、韓国勢が積極展開している。タッチパネルやセンシングサイネージ系はDSJではほとんど見ることはない。これらのニーズがなくなったというわけではなく、LEDが大躍進中ということだ。そしてこの傾向は当面は変わらないのではないかと思う。

DSJの初日には、例年通りデジタルサイネージアワード2024の受賞作品が発表され、その授賞式が開催された。以下の受賞作品のリストと詳細内容へのリンクを用意したので、ぜひ御覧いただきたい。

デジタルサイネージアワード2024 受賞作品

グランプリ 1作品

東京ドームシティビジョンズ

  • 株式会社東京ドーム
  • 三井不動産株式会社
  • 株式会社ジェイアール東日本企画
  • 株式会社竹中工務店
  • &Form
  • 株式会社ホシノアーキテクツ
  • パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社

優秀賞 10作品(以下は作品名五十音順)

LEDビジョンと音楽の融合により情緒的な体験を提供する「イマーシブ・エレベーター」

  • フジテック株式会社
  • 株式会社クラウドポイント
  • 株式会社センヨーミュージックマネジメント

優秀賞

オフィスエントランスでのグループウェアと連携するデジタル案内

  • 株式会社Dirbato
  • 株式会社JUPITER JAZZ
  • 株式会社tonel.
  • 株式会社ワブタス
  • 株式会社WAKATOBI
  • アビックス株式会社
  • SIIM

優秀賞

QRコードを読み取って、働く自分に、働くみんなにエールを送ろう。「安部礼司」が働くあなたから働くみんなへのメッセージを届けます。

  • 株式会社エフエム東京
  • 日産自動車株式会社
  • 株式会社TBWA HAKUHODO
  • 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
  • 株式会社 LIVE BOARD

優秀賞

ゴジラビジョン

  • TOHOマーケティング株式会社
  • 株式会社ジェイアール東海エージェンシー
  • 株式会社東宣

優秀賞

生成AIによるクリエイティブで駅メディアを対象にVRアイトラッキング調査を実施

  • 株式会社 大阪メトロ アドエラ

優秀賞

デジタル室内公園"BiVi Park"

  • フラクト株式会社
  • 大和リース株式会社
  • 表示灯株式会社

優秀賞

東急歌舞伎町タワー KABUKICHO TOWER VISION(&KABUKICHO TOWER STAGE)

  • 東急株式会社
  • 株式会社東急レクリエーション
  • 株式会社TSTエンタテイメント
  • 株式会社東急エージェンシー

優秀賞

東京中を美術館にしよう

  • 一般社団法人東京ビエンナーレ
  • 株式会社 LIVE BOARD
  • 株式会社電通
  • 株式会社ピラミッドフィルムクアドラ

優秀賞

東京都庁の世界最大投影面積の常設プロジェクションマッピングシステム

  • パナソニック コネクト株式会社

優秀賞

Beyond Stations構想から生まれたイマーシブなメディア

  • 東日本旅客鉄道株式会社
  • 株式会社ジェイアール東日本企画

以上

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