現役自衛官セクハラ国賠訴訟 隊ぐるみで隠ぺい、原告の昇任遅らせたか…元上司の陳述書提出

弁論後に会見を行う原告(手前)と弁護団(6月17日 都内/弁護士JP編集部)

航空自衛隊で働く女性自衛官が、隊内で受けたセクハラ被害について、隊や防衛省等に申告するも適切な対応が取られなかったとして国の安全配慮義務違反を訴えている裁判の進行協議(非公開)と第7回弁論が、17日東京地裁(貝阿彌亮裁判長)で行われた。

裁判では原告が意見陳述を行ったほか、原告の元上司による陳述書と原告との通話記録が証拠として新たに提出された。

元上司の陳述書では、法務班が加害者に加担しセクハラ行為を隠ぺいしようとしていたことや、隊の幹部らがセクハラを訴えた原告の昇任を遅らせるよう元上司に働きかけを行っていたこと等が言及されている。

国は「責任なかった」と主張

原告は那覇基地に着任した2010年から、身体的特徴や性行為に関する発言を繰り返しされるセクハラ被害に遭い、2013年に上司に報告。以来10年にわたり、自衛隊・防衛省のさまざまな機関(※)に被害を申し立てたが、「加害者にも家族がいる」(班長)、「我慢するしかない」(セクハラ相談員)などと一向に適切な対応が取られなかった。

※①班長、②セクハラ相談員、③法務班、④セクハラホットライン(防衛省人事局)、⑤航空幕僚監部セクハラ相談室、⑥防衛相・自衛隊交易通報窓口、⑦総隊司令官、⑧河野克俊統幕長(当時)、⑨防衛監察、⑩法務省、⑪人事院、⑫特別防衛監察

また、原告は2016年に、那覇地方裁判所で加害者を被告とする民事訴訟を提起(加害者も原告の訴えは事実無根として反訴)。隊員らがセクハラを証言する報告書を裁判に提出したことを理由に、原告は情報流出容疑で警務隊による取り調べを受け、検察送致された(起訴猶予、隊内訓戒処分)。

一連の裁判で那覇地裁は、加害者の行為は「セクハラ発言に当たると判断される可能性は十分にある」とする一方で、「仮に違法であっても国家公務員である加害者個人が不法行為責任を負うことはない」として原告の訴えを退けた。

国家公務員であるという理由で加害者個人の責任を問えなかったため、原告は加害者の監督責任を負う国の安全配慮義務違反を問う国家賠償請求訴訟を提起(2023年2月27日)。裁判で国は隊員によるセクハラ行為を認めたが、国に責任はなかったと主張している。

原告「セクハラは認めたが、何一つ解決していない」

原告は意見陳述で「この訴訟になって初めて組織がセクハラの事実を認めましたが、不適切な処置、報復や攻撃については何一つ認めず、何一つ解決していません。私はこのような組織で今も働き、そして生活しているのです。

セクハラの証拠(報告書)を裁判所へ提出した私に対して、組織は『自分のことしか考えていない身勝手な行為』として訓戒を出しましたが、国家公務員という立場であり『徳操を養い』『国民の負託にこたえる』と服務の宣誓をしているにもかかわらず、代理人に任せっぱなしにしている加害者や加害を隠ぺいし続けた当事者たちこそが一番身勝手ではないでしょうか。

裁判官におかれましては、ハラスメントを隠ぺいする組織に入隊してくる若者たちのためにも、国民が納得する正しい判断へと導いてくれることを切に願います」と訴えた。

元上司「勤務評定を悪く書くよう幹部から話があった」

弁論後、原告と弁護団は会見を開き、改めて争点の説明等を行った。

武井由起子弁護士は、国側が責任はなかったとする主張について、次のように説明した。

「セクハラ等の被害者の安全を配慮すべき人を『履行補助者』といいますが、国は原告に対して“指揮監督権限”のある隊長だけが履行補助者であるとしています。

さらに、隊長は日常的に原告と顔を合わせておらずハラスメントを知らなかったから配慮はできなかった。だから国には何の責任もないのだ、という恐ろしい主張です。

履行補助者を国の言う通り“指揮監督権限”を持つ者だけに狭めた場合、近くにいる先輩や班長がセクハラに気が付いたとして、注意や隔離措置等をとらなくても安全配慮義務違反には当たらないということです。これを一般企業に置き換えれば、ひどい言い分だということは多くの方がわかると思います」

新たな証拠として提出した元上司の陳述書については、金正徳弁護士から説明が行われた。

「元上司は、幹部から原告の勤務評定を悪く書くように話をされたと言及しています。

勤務評定は昇任選考にかかわる評価の100点中50点を占める重要な要素です。それを悪く書くように幹部が指示をしたということは、原告の昇任を不当に遅らせたということを裏付ける証拠になると考えています」

元上司は法務専門官、法務補佐官としても勤務した経歴を有しているといい、原告が加害者個人を訴えた那覇地裁での裁判で、法務班が複数回加害者と打ち合わせを行い、多数の隊員に『セクハラを見たことがない』等の陳述書を書かせていたことについても言及している。

「被告がセクハラの加害者と結託し、原告の被害の回復を妨げ、昇任を遅らせたことは、原告に対する安全配慮義務に違反していることが明らかです」(金弁護士)

「被害を受けた私が辞める理由はない」

会見で、今も自らが所属する組織を相手に裁判を行うことについて問われた原告は、「いつ(自衛隊を)辞めるのとしきりに言われますが、加害行為をした人が辞めるべきで、被害を受けた私が辞める理由はないと思っています。

また、女性自衛官からも『自分もそういう被害を受けてきた、みんな我慢してる』と言われてきました。でも私はその言葉を後輩に絶対に言いたくありません。自分を保護したくない。そういう信念を持って訴訟をしています」と力強く語った。

次回9月26日の進行協議(非公開)と第8回弁論では、主に弁護側の主張に対する国の反論が行われる予定だ。

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