ソースカツ丼の名店「ふくしん」復活への舞台裏 異業種アパレルからの挑戦 福井で進む事業継承マッチング

多くのファンを持つ「名店」と呼ばれる店は県内各地にありますよね。ただ、このような店は個人経営のものも多く、店主の高齢化や後継者不足など様々な理由で閉店する店もあります。名店の味を第三者が引き継いだ事例を基に、飲食店の「事業継承」について考えます。

6月13日、先週木曜日、福井市内のキッチンスタジオでは、ある老舗レストランの復活オープンに向けた研修が行われていました。指導するのは老舗レストランの元料理長で、教わるのは、新たに調理責任者となる若いスタッフです。指導する元料理長の吉川雄次さんは「なんとか受け継いでいただいて、同じものを提供できるようお願いしたい」と指導に熱が入ります。長年、福井県民に愛されてきたこの「名店の味」を確実に受け継ごうと参加した森奬貴さんは「今のところ何とかついていけていと思っているが、やる事がたくさんあるのと、プレッシャーが…多数の人から期待の声をもらっているので、頑張らないといけないと思っている」

多くの人が復活を期待しているその「味」とは、ソースカツ丼の店「ふくしん」の復活です。2023年7月、創業50年の歴史に幕を閉じた福井市の老舗レストラン「ふくしん」。ソースカツ丼が有名で、県内だけでなく全国にファンを持つ人気店でした。店主の橋爪節子さんは、当時「開業して50年というのと、亡くなった主人の17回忌が重なり、ここでやめておこうかと。体力的にもきついものがある」と話していました。

惜しまれつつも閉店したこの「名店」が、7月にリニューアルオープンするエルパのフードコートで復活します。節子さんの娘・美幸さんは「たくさんお話をいただいた中でも、あきらめずにずっと説得をしていただき、根負けしたわけではないが熱意に負けた。場所は変わるが、また変わらぬご愛顧をいただきたい」と話します。

人気店の暖簾(のれん)を受け継ぐのはエルパで洋品店を営む株式会社「コサカ」です。「ふくしん」の経営陣と血縁関係のない第3者による事業継承です。コサカの森裕一社長は「会社が今年で50周年を迎えることになり違う事業を、と思っているところにこの話をいただいた」と話し、これまでのアパレル業一筋から、初めて進出する飲食業での「名店の味」の復活に自信をのぞかせます。

コサカ・森裕一社長:
「ふくしんの美幸さんを雇用できることになったので、味のクオリティや材料のことは間違いなく同じもので提供できると思う。お客様に喜んで食べていただける形が一番うれしく思っている」

閉店から一転、復活するふくしんのソースカツ丼は7月19日、リニューアルオープンするエルパのフードコートで提供されます。

一方、福井商工会議所では、長らく愛されている名店が閉店するのを防ごうとするプロジェクトが7月からスタートします。福井商工会議所では「ネットを使ったWebアンケートで皆さんに名店を聞こうと思っている。それをリスト化してそこに重点支援をしようと考えている」と話しています。

福井商工会所によると、飲食店が閉店する理由は、後継者の不在だけに限らず、資金繰りの問題や、人手不足など様々あります。アンケートの上位の店に商工会議所側からアプローチすることで店の課題を掘り起こし、長く営業してもらうための支援につなげたい考えです。

また、このアンケートは、「ふくしん」を引き継いだ「コサカ」のように、第3者が事業を引き継ぐケースでも活用できるとしています。福井商工会議所では「ブランド力や暖簾(のれん)があると新しく引き継ぐ側も一から事業を立ち上げるのではなく、すでに客がついているお店として引き継ぎやすい」と話します。

プロジェクトでは、今後、第3者による事業承継のマッチング会の開催も予定していて、福井商工会議所では、経営者側の存続を考える契機になるよう期待を寄せています。

「県事業承継・引き継ぎ支援センター」の実績を見てみると、飲食業に関わらず事業承継に関わる相談件数は年々増えていて、第3者が事業を承継した実績は、2023年度は47件、5年間で3倍以上となっています。理由としては、▼引き渡す経営者側に会社が売れるという認識が広がっていること、▼引き継ぐ企業側もリスクマネジメントの面から、これまでの本業とは別の異業種に進出したいという要望が多く、設備や人手をそのまま引き継げる「事業承継」が注目されています。

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