最大で16mの巨大津波も想定・山形県沖「大地震の空白域…備えを」

5年前の山形県沖地震では、高さ11センチの津波も観測されたが、人への被害はなかった。しかし県の想定によると、次に起こり得る山形県沖地震の津波は、最大で16メートルを超える巨大津波とされている。専門家は、「山形県沖は、大地震・大津波の空白域で、警戒が必要」と警鐘を鳴らしている。

5年前の山形県沖地震では、「津波注意報」が出され、鶴岡市鼠ヶ関で11センチ、酒田市で5センチの津波が観測された。深夜の出来事に、沿岸部の住民たちは不安な夜を過ごした。

(当時のインタビュー)
「すぐ港の前、日中より夜はなにが起きるかわからないので、気持ちが落ち着かない」

最大震度「6弱」という県内の観測史上最大の地震だったが、幸い、人命に関わるような被害は出なかった。しかし、津波工学が専門の東北大学の今村文彦教授は、「山形県沖は、5年前よりも大きな地震が今後発生するおそれがあるエリアだ」と指摘している。

(東北大学・今村文彦教授)
「過去において、1964年の新潟、83年の日本海中部、実際にM7.5以上の地震、津波が起きた。実はその間に山形県が位置していて、これは最近、地震と津波が起きていない『空白域』に相当する。残るは山形県沖という状況になっている。その切迫性はかなり高い」

今村教授は、県が2016年に作成した「今後起きるおそれがある最大の山形県沖地震」の津波の被害想定にも携わった研究者。それによると、県が想定する最大の被害は、「最大震度7」「県内で全壊する建物数は約1万戸」「津波による死者は5060人」という甚大な被害。
今村教授によると、5年前の山形県沖地震や能登半島地震など、日本海側で発生する津波の特徴は、その到達速度にあるという。

(東北大学・今村文彦教授)
「今回の能登半島地震と5年前の山形県沖地震は非常に類似している。強い揺れの後に津波が非常に早かったと」

5年前の山形県沖地震では、鶴岡市鼠ヶ関への津波の到達は、地震発生の5分後。
今年1月の能登半島地震では、震源に近い石川県珠洲市に、地震のわずか1分後には最大5メートルの津波が到達したとされている。
さらに能登半島中央部の七尾市では地震の2分後、隣県の富山県富山市にも5分後には到達したとみられている。
地震発生から到達までの時間がとにかく早いのが、日本海側の津波の特徴だ。

(東北大学・今村文彦教授)
「日本海側での地震による津波は沿岸部近くの活断層で発生する。揺れと同時に津波がすぐ来てしまう位置的な関係が到達時間を早くする原因になる」

そして「今後想定される最大の山形県沖地震」が発生した場合、能登半島地震よりもさらに深刻な被害が出ると考えられている。
県が作成したシミュレーション動画で具体的に見てみると、沿岸部を襲う津波の最大の高さはじつに「16.3メートル」。能登半島地震の最大「5メートル」の3倍以上の高さの津波が来ると考えられている。これはじつに5階建てのビルに相当する高さ。
シミュレーションによると、鶴岡市鼠ヶ関では津波の第1波は地震発生から約7分後に海岸に到達。その後何度も津波が押し寄せ、道路を超える高さに到達。
海岸線では、ビルの3階に相当する、最大8.8メートルの津波が想定されている。

続いて、沿岸や川の近くに市街地が広がる酒田市。第1波の到達は、地震発生から約17分後。酒田港から川をさかのぼり、市街地に浸水が広がっていくのがわかる。
この地区では海岸線で最大13.3メートルの津波が想定されている。
さらに津波は、一度水が引いた地域でも何度も押し寄せている。

(東北大学・今村文彦教授)
「日本海は比較的閉鎖空間。狭い。クローズした空間。津波が入射したり反射したり、振動を繰り返す。能登半島地震は半日後や1日たって最大波が来る場合もあった。そのため津波の避難も早く行動しなければいけないし、避難が解除されるまで長く続けないといけない」

今村教授は、津波から命を守るため最も重要なのは「迅速な避難」とした上で、日本海側に住む人は「長時間の避難にも耐えられる備え」が必要だと話す。

(東北大学・今村文彦教授)
「津波の避難が必要になる場合には、非常持ち出し品(が重要)。夜間、冬場はかなり寒くなる。夏場は暑くなるので水分補給など、備えをしてもらう。それによって適切に避難の継続の問題が無いように準備をしてほしい」

過去の災害を教訓に、命を守るため何ができるのか、一人一人が真剣に考える必要がある。

(東北大学・今村文彦教授)
「地震津波に対して関心を持ってもらい、意識を持ってもらい具体的な備え、特に津波に対する避難は、我々が努力すれば人的被害はゼロになる。皆さんで取り組んでほしい」

県の最大の被害想定によると、冬の夜に大地震が発生した場合、津波による死者数は最大5060人に上ると考えられている。しかし同じ条件でも、地震の発生後すぐに避難を始めれば、死者数は2割以下に抑えられると考えられている。
「すぐ避難すること」、そして「すぐには家に戻らないこと」が重要だ。

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