川内原発1号機、7月4日に運転延長入りするが…県知事選でも論戦低調 専門家「中長期視点でエネルギー政策考える契機に」

原発事故を想定し訓練する児童と保護者ら=8日、薩摩川内市の水引小学校

 九州電力川内原発1号機(薩摩川内市)は7月3日に40年運転期限を迎え、翌4日から20年の運転延長期間に入る。経済効果の継続を歓迎する声がある一方、経年劣化や複合災害への懸念は増している。知事選と重なる日程ながら、活発な論戦が行われているとは言いがたい。

 1号機は6月14日に定期検査入りした。通常運転復帰までの3カ月間、最大3000人の作業員らが同市を訪れ、地元は書き入れ時だ。

 「宿泊や飲食業など地元経済への影響は大きい。安定したエネルギー供給のためにも原発は必要」。川内商工会議所の橋口知章会頭(68)は語る。定検のたびに8億円を超える経済効果があるともいわれる。

 県も電源立地地域への振興策などで2024年度までの5年間に計189億3000万円(予算ベース)を国から受ける。インフラ整備や生活の利便性向上に幅広く支出。直近は、企業立地に対する支援の伸びが著しい。

 地域政策課は「地域振興や住民サービスの向上に役立っている」とする。川内原発へ独自に課す核燃料税(24年度予算は約25億円)もあり、厳しい県財政にとって貴重な財源といえる。

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 ただ、運転延長への不安は根強い。1月の能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県)が被災し、周辺で家屋倒壊や道路の寸断が続出。避難計画の実効性を根本から揺るがした。

 6月上旬、薩摩川内市の15小中学校であった、地震に伴う原発事故の対応訓練。保護者からは「通学路の寸断や渋滞が起きないか」「別々の学校に通う子どもの迎えにかかる時間が読めない」と不安の声が聞かれた。

 県は避難計画を「国の動向を注視し、必要に応じて見直す」(原子力安全対策課)とする立場にとどまる。そんな中、複合災害への懸念は原発から30キロ圏外でも高まっている。

 長島町下山門野の農業浜田貫雄さん(85)は「島に逃げ場はなく、車を運転できない高齢者も少なくない」と強調。「歩いて行ける範囲に(放射線防護の)退避施設が必要だ」と力説する。

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 国は脱炭素社会の実現やエネルギー安定供給を旗印に、再生可能エネルギーに加えて原発の活用にかじを切った。事故時に被害者となる住民は置き去りになりかねない危うさをはらむ。

 原子力政策に詳しい明治大学の勝田忠広教授(55)=鹿児島市出身=は知事選後の4年間を、再エネをはじめ、頼る電源を中長期的視点で議論する重要な時期と指摘。「選挙を鹿児島の在り方を考えるスタートにしてほしい」と呼びかける。

■県知事選立候補予定の3氏、見解は三様

 鹿児島県知事選に立候補する無所属3人は、九州電力川内原発への考えをマニフェスト(政策綱領)や会見で示している。運転延長を前提にした安全確保、将来的に脱原発、県民の意思表示で今後を決める-。見解は三者三様だ。

 続投を期す塩田康一氏(58)は運転延長を容認しており、「九電に安全性の確保や県への丁寧な説明を強く求める」と記す。初当選時に柱の一つだった「脱原発への対応」は消えた。

 元自民県議の米丸麻希子氏(49)も運転延長を容認するが、将来的な脱原発をうたう。「今後25年をめどに段階的に停止し、再生可能エネルギーに置き換える計画を策定する」とする。

 運転延長には反対の立場という樋之口里花氏(52)は「是非を問う県民投票を実施する」と明記。少なくとも実施までは、原発の運転を中止するよう九電に要請すると訴えている。

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