立山直下の「鉄道」快適 黒部アルペンルート内部、本社記者「潜入」 国内唯一のトロリーバス、今季で廃止

トンネルを走行するバス。破砕帯の区間は青く照らされている=室堂駅周辺

 国内に唯一残る「鉄道」の魅力を存分に感じた。18日、立山黒部アルペンルートの室堂駅(標高2450メートル)と大観峰(同2316メートル)をつなぐトンネル内を走る国内唯一のトロリーバス(トロバス)の報道陣向けツアーが行われた。1996年の運行開始から28年、設備の老朽化に伴い、今シーズンで廃止される。普段は見られない内部設備や整備工場などに「潜入」して見えてきたのは安全と快適さを両立する技術だった。(経済部・北代翔人)

 アルペンルートを訪れるのは全線開通した4月以来2度目。最近は真夏日が続いていたが、室堂の気温は午前9時で9.9度。4月に高さ約14メートルだった「雪の大谷」は、今や通行するバスと同程度の約3~4メートルになっており、季節の移ろいを感じた。

 案内してくれたのはアルペンルートを運営する立山黒部貫光(富山市)の早川忍運輸課室堂運輸区技術長(51)。トロバスの整備を担当して8年目の早川さんがまず説明したのは「見た目はバスですが電車なんですよ」。どういうことか。

 トロバスはエンジンを積んでおらず、天井を走る2本のトロリー線(架線)の電気を車体後方にある集電装置に取り入れ、モーターを動かす。電車のようなレールはないが、架線の電気で動くため鉄道の一種「無軌条電車」に分類されるという。

  ●狭い道、驚きのハンドルさばき

 とはいっても、基本はバスと同じでハンドル操作。実際に室堂駅―大観峰間の3.7キロを走行すると、驚いたのは4メートルしかないトンネルの道幅だ。

 バスの車幅は2.8メートルのため、左右のゆとりは各60センチ。窓を開けて手を出せばぶつかりそうなわずかな細いトンネルを最高速度40キロで走行する。乗り心地は快適で、トンネル工事で難所となった「破砕帯」の区間は周囲が青く照らされているのも印象的だった。

  ●28年で1940万人乗車

 室堂駅横の整備工場で設備の説明を受けた。架線から集めた600ボルトの電気を105ボルトに変換する「メインコンバータ」、感電を防ぐためバスの扉に設置されている「アース球」など、説明しきれない程の機械から成り立っているから驚きだ。

 トロバスは環境保全のためにこれまで走行していたディーゼルバスから受け継いで導入され、今年5月20日現在で累計1940万人が乗った。電気系統の部品調達が困難なため、今シーズンで廃止が決定。来シーズンからは架線を使わない電気バスに切り替わる。早川さんは「私はトロバスがここに導入されると知ってこの会社に入ったくらい。なんとか残したい気持ちもあったが、受け入れるしかないね」と寂しそうだ。

 今シーズンの乗車人数は5月末の速報値で約24万人と昨年比3万人増の好調な滑り出しだ。回りを見渡すと、中国や韓国などの団体ツアー客が続々と訪れる様子が見られた。

  ●30日から一般ツアー

 バックヤードツアーは6月30日の第1回を皮切りに、8月31日、9月1日、10月14日と計4回開かれる。20人限定で、第1回は既に応募は締め切られているが、第2回以降はまだ抽選が始まっていない。

 ツアーでは運転席に座ったり、運行コースをVR(仮想現実)で再現し、ゴーグルを使った運転の疑似体験もできたりする。ラストランを迎える「立山直下」を走る鉄道。記念にアルペンルートを訪れてはいかがですか。

電気設備を説明する早川技術長

© 株式会社北國新聞社