塀越しの無関心(6月19日)

 福島市で上映中の映画「関心領域」は不穏な空気が漂う。ナチスが設けたアウシュビッツ強制収容所の隣の豪邸に住む所長と家族の日々を描く▼ピクニック、パーティー…。生活は一見、穏やかだが、高い塀越しに悲鳴や銃声が聞こえる。焼却炉の煙突から大量の煙が立ち上る。観客はユダヤ人の凄絶[せいぜつ]な末路を想起する。所長の家族は関心を払わず、享楽生活を謳歌[おうか]する。塀越しの対比に異様さが際立つ▼アンネ・フランクは塀の中に連行される前、隠れ家で息を潜めた2年余りを日記につづった。作家の小川洋子さんは歴史的な意義とともに文学的な豊かさを説く。物書きを志すきっかけにもなったと明かす。過酷な日常であっても、思春期の感受性があふれているから、琴線に触れ、読む人を動かす力を宿すのかもしれない▼白河市のアウシュビッツ平和博物館は、ガザでの惨劇などを機に来館者が増えたという。かの地の遺恨に時効はなく、現在と地続きだと展示資料は教える。同胞が今は塀の外側にいる現実に、彼女は何を思うだろう。平和をいちずに願った日記を手にして、やるせない。塀の内側に閉じ込められた人々に、いつの時も無関心であってはなるまい。<2024.6・19>

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