「もっと良い選手になれるはず」なでしこジャパンの“苦労人”長野風花。豊富な運動量は過酷な日程で活きてくる【パリ五輪の選ばれし18人】

パリ五輪に挑むなでしこジャパンのメンバーがついに発表された。ここでは12年ぶりのメダル獲得を目ざす日本女子代表の選ばれし18人を紹介。今回はMF長野風花だ。

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なでしこジャパンで背番号10を託されている長野風花は、主に長谷川唯(マンチェスター・シティ/イングランド)とボランチを組んでチームの中盤を支えてきた選手だ。

長谷川が得点に直接結びつける攻撃的な役割が多いのに対し、長野はどちらかと言うと守備的な役割が多い。だが、試合の最終盤に相手の体力が落ちてきた隙を見て、ゴールを狙える位置まで攻め上がれるスタミナも持ち合わせているのが魅力だ。

決勝までは移動を伴う中2日で勝ち進めていく過酷なパリ五輪で、長野の運動量は一層活きてきそうだ。

浦和レッズレディース(現・三菱重工浦和レッズレディース)の育成組織である浦和レッズレディースジュニアユースに加入した長野は、早くからその才能を見出される。

2014年のU-17女子W杯メンバーに高倉麻子監督(当時)は15歳の長野を抜擢し、飛び級ながら主力として活躍。若くして世界一を経験した。2年後のU-17女子W杯では、キャプテンとして出場したが、決勝でU-17北朝鮮女子代表にPK戦の末に敗れて準優勝となった。長野は大会最優秀選手賞(MVP)に贈られるゴールデンボール賞を受賞した一方、大会連覇を阻まれて大きな悔しさを味わった大会だった。

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池田太監督が率いた2017年のU-19女子アジア選手権では、決勝でU-19北朝鮮にリベンジを果たす形でアジアを制覇。強い体幹が武器の北朝鮮選手に長野は何度も倒され、ユニホームを泥だらけにしながら優勝を勝ち取った。涙を流して喜ぶ長野だったが「(翌年の)U-20女子W杯だけでなく、その先に向けてもっと成長しないと」と焦燥感も見せた。

当時の浦和は選手層が厚く、長野が活躍できる時間は限られていた。そんな現状を打破すべく、それまで浦和一筋だった長野は移籍を決意する。

2018年シーズンは韓国の強豪・仁川現代製鉄レッドエンジェルズに活躍の場を求め、そこで主力となると、同年のU-20女子W杯で再び世界一を経験した。U-17、U-20の2世代の女子W杯を制覇した長野は、2018年11月になでしこジャパンデビューを果たすも、そこから定着するには時間を要した。

なでしこジャパンで2試合目の出場となったのは、そこから3年後の2021年11月。その間、当時なでしこリーグ2部のちふれASエルフェン埼玉で2年間プレーしたが、長野らしいポジティブシンキングが後々のなでしこジャパン定着につながっていく。

「どんな環境でも毎日学びが多すぎて『まだまだ自分いけるわ』という可能性しか感じていなかった。環境が変わることがもっと上のレベルを目ざすきっかけになって、もっと良い選手になれるはずという伸びしろが見えてくる。どんな環境にいてもなでしこジャパンを目ざす気持ちは常にあった」と、当時を振り返る。

その後、アメリカでのプレーを経てリバプール(イングランド)に移籍しても、長野らしい体力を生かした気の利くポジショニングとボール奪取でチームに貢献し続けている。

若くして世界の舞台で活躍した長野は、一見するとエリートのようだが、実は苦労人だ。しかし、それを苦労と思わないマインドが長野の今を確立している。

池田監督が標榜するアグレッシブなサッカーを体現するために、長野というピースはパリ五輪でも欠かすことはできない。

取材・文●馬見新拓郎(フリーライター)

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