西武の低迷を招いた5つの誤算。渡辺監督代行の″育てる采配”で今後はどこまで上向けるか?<SLUGGER>

交流戦を終えてもトンネルの出口は見えてこなかった。史上初めてとなる2年連続の交流戦最下位に終わった西武は、監督を交代しても状態が上がってこない。何が原因なのだろうか。開幕からここまで、今季の西武の誤算を検証してみよう。

1 アギラー、コルデロの両外国人の不振

メジャー通算113発の助っ人ヘスス・アギラーは、チームの中心を担うと期待されていた大砲だった。2018年にはMLBのオールスターにも出場したスラッガーだけに、「よく獲れた」という見方がある一方、昨年7月に渡辺久信GMがインタビューで「日本の投手のレベルが高いから新外国人選手が1年目から活躍するのは簡単ではなくなっている。うちのマキノンが健闘している方だ」と語っていたように、昨今は助っ人が日本で活躍する難しさに対する懸念の声もあった。

結局、アギラーはこれまで30試合に出場して2本塁打のみ。5月上旬に足首の痛みを訴えて現在も離脱中だ。中距離ヒッターとして期待されたコルデロも2度のファーム落ちを経験し、日本人投手のレベルの高さにまったく歯がたたないのが現状だ。ただでさえ、昨オフに山川穂高がソフトバンクへFA移籍し、他に長距離打者が40歳の中村剛也しかいない状況では、中心に据えられる選手が不在で、打線を組むのも精一杯。新外国人選手の2人の不振が大きく響いているのは間違いない。
2 外野手のレギュラー不在。

西武が昨季から課題としてきたのが外野のレギュラーで、「一人も決まっていない」と松井稼頭央前監督もシーズン前から話していた。ただ、多くの若手選手が昨季一軍を経験。2年目を迎える蛭間拓哉を筆頭に、長谷川信哉、西川愛也、若林楽人、岸潤一郎など抜け出す選手が出てくる期待はあった。ところが蛭間、長谷川はオープン戦から不調で開幕一軍ならず。若林は開幕スタメンこそ勝ち取ったものの定着できなかった。結局ベテランの金子侑司がスタメンの一角を担うほどで、現在もレギュラーは定まっていない。育成に舵を切るタイミングが遅れたことが、現状を招いているのは間違いないだろう。

3 源田、外崎の不調
若手の成長が遅れる一方、チームの中心的存在である源田壮亮、外崎修汰が波に乗れていないのも、紛れもない事実だ。源田は63試合に出場し、打率.229と低迷。出塁率も3割を切り、チャンスでことごとく凡退するなど調子が上がってこない。昨季までは2番を打つことが多かったが、今季は下位でも出番も増えている。開幕戦は3番だった外崎も51試合で打率.228。6月8日に左足を負傷して途中交代し、現在は二軍で調整中の身だ。

2人もすでに30歳を超え、ともに二遊間を長く担ってきた。これは過去のコラムにも書いたが、人工芝を本拠地球場にする選手は運動量が多く、身体への負荷が大きい。その金属疲労と年齢が押し寄せている。この年齢になると、一度は低迷期が訪れる選手も少なくない。例えば、チームメイトの中村は17年に不調でファーム落ちも経験したが、バッティングスタイルを変えて再浮上した。

ただ、それができたのは浅村栄斗(現楽天)や森友哉(現オリックス)、山川穂高(現ソフトバンク)など、次世代の担い手が台頭していたからだ。そのため離脱しても時間的余裕を得ることができた。だが、現在の西武は若手が伸び悩み、源田、外崎の疲労を救える状態にはなく、悪循環を招いている。源田は「若手には負担をかけて申し訳ないと思っている」と話す一方で、鈴木将平は「本来は僕や(佐藤)龍世がチームを押し上げていかないといけないのに、源さんに頼りっぱなしなのがいけない」とともに反省を口にしているのは、チームの現状を象徴している。
4 リリーバーの不調
攻撃陣が機能不全に陥っている中、投手陣に関してはエースの今井達也を中心に安定しているというのが開幕前の評判だった。高橋光成や平良海馬(現在は右腕の故障で離脱中)、隅田知一郎にルーキーの武内夏暉ら人材はそろい、現在はリリーフに回った松本航や最速158キロの期待の左腕・羽田慎之介など、他にも枚数は多くいた。

いくら攻撃陣が機能していないとはいっても、投手陣が前評判通りなら、ここまで負けてはいないはずなのだ。現状勝てていないのは先発陣で作った勝利の形をつなげていないところにある。リリーフ陣が不調に陥り、計算できたはずの勝利をいくつも逃している。この点は先発防御率が2.78に対し、救援御防御率は4.41という数字が証明している。

そもそものつまづきは山川の人的補償で加入した甲斐野央の離脱だった。勝利の方程式は8回・甲斐野、9回アブレイユを想定し、当初はその形でよかった。そこに水上由伸や豆田泰志、田村伊知郎などが絡み、ベテランの増田達至と平井克典が援護する体勢でかまえていた。

しかし、甲斐野が離脱した途端、8回を埋める投手が見当たらなくなった。リリーバーたちは入れ替わり立ち替わりファームへ落ち、自信を喪失してしまったのだ。先発ローテーションから松本航をセットアッパーに回したがその悪循環は断ち切れず、とうとうクローザーのアブレイユも失敗を繰り返す始末だった。「完封しないと勝てない」とは渡辺監督代行の言葉だが、先発投手陣に負担をかけなければ白星を挙げられないのは問題だろう。

5 続出する故障者

チームの不振にさらなる追い打ちをかけているのが、調子が上がってきたところで故障離脱する選手が絶えないことだ。最初に離脱したのは、三塁の開幕スタメンを勝ち取ったブランドンだった。昨季オフに戦力外通告を受けて育成に降格していたが、オープン戦で猛アピールして支配下復帰。開幕スタメンを勝ち取ったが、3試合出場限りで左足を負傷し登録抹消となった。
山村崇嘉の離脱も痛かった。開幕こそファームで迎えた山村だが、キャンプから一軍入りするなど期待されたスラッガーだ。ポジションの関係上二軍でスタートしたが、好調だったために4月12日に昇格すると、慣れない外野での抜擢を受けた。16日ロッテ戦では3ラン本塁打も放つなどそれでも好調だったが、4月20日の楽天戦で右太腿を痛めて離脱。さらに5月にはアギラーも故障した。

これらの状況を受けて、同11日にルーキーの村田玲音が一軍へ昇格。3試合目にはマルチ安打を放つなど勢いをチームにもたらしていたが、15日の日本ハム戦での守備時に、打球を追ってフェンスに激突。約3ヵ月の長期離脱を余儀なくされた。さらに同31日には、8試合連続出塁を果たすなど調子が上向いてきた平沼翔太が肉離れ。6月13日には昨季からチームの中心になりつつあった佐藤龍世が左有鈎骨部分切除術を受け、全治2ヵ月となった。ただでさえレギュラーと呼べる選手が少ない中で、これだけ選手が欠けていくとチームが機能不全になるのも当然だ。もちろん、山村やブランドン、外崎はすでに二軍の試合に出ており、まもなく復帰する見込みだが、苦しい日々は続いている。

渡辺監督代行となってからも状況は好転していないが、選手たちの成長を促すような起用が随所に見られるのは好材料だろう。将来を見据えた厳しい起用を心がけ、「試合に出場できることが当たり前ではない」のだということを、若手選手たちが感じ始めている。精神的にも肉体的にも、それに技術も、彼らを一軍で戦えるレベルに引き上げることができるかが肝要になる。

「まずは先制して試合の主導権を握る野球をして勝つ試合を作っていかないといけない」と渡辺監督代行は話す。これまでは逆転勝ちすることもあったが、「そういう試合は続かない。まずは先制して逃げ切る試合を多く作っていく」とビジョンを示している。

先制し、先発投手がゲームを作って試合を締めていく。当面は苦しいが「今は怪我人も多くて一番底にいる状態。それが上がってきた時にどこまで昇れるか」と渡辺監督代行。力はないながらに、もがき、少しでも主導権が握った試合を作って勝利を増やしていく。その先に希望が見えてくる。

数々の誤算が招いたチームの大失速。西武はどこまで這い上がっていけるだろうか。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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