【社説】改正規正法成立 国民の怒り1票に託そう

裏金事件の再発を防ぎ、政治資金の流れを透明にするための法改正ではなかったのか。小手先で修正したところで、ザル法はザル法のままである。

改正政治資金規正法が参院本会議で可決、成立した。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件がきっかけだったにもかかわらず、事件を反省した内容になっていない。

政治資金を透明化する仕組みの多くは未定で、検討はこれからという。張りぼてのような法律だ。検討を先送りするうちに骨抜きになる可能性もある。

改正案に賛成した自民党と公明党は、裏金事件に対する国民の怒りを軽く見ているようだ。私たちは事件発覚から法改正までの与党の対応を忘れず、監視を続けなくてはならない。

■「抜け穴」はふさげず

結論先送りの最たるものは、政党が政治家に寄付する政策活動費の使途公開だ。

現在は、二階俊博元自民幹事長のように数十億円を受け取っても公開義務はない。法改正でメスを入れるべきだったのに、10年後に支出の領収書を公開することしか決まらなかった。黒塗りで公開される恐れもある。

政治資金収支報告書の虚偽記載などで罪に問える時効は5年だ。使途を監査する第三者機関の設置時期や役割は決まっておらず、ブラックボックスであることに変わりはない。

パーティー券購入者の公開基準額は、現行の20万円超から5万円超に引き下げられた。

これで透明性が飛躍的に高まるとは言えない。パーティーの回数を増やせば、企業や団体も名前を公表せずに従来通りの金額を購入することができる。

収支報告書はオンラインによる提出を義務付けるものの、保存期間は変わらず3年のままだ。

裏金を受け取っていた現職議員82人のうち、立件されたのはわずか3人だった。法改正後も、会計責任者と共に議員が連帯責任を負う制度は実効性を欠く。

規正法の改正内容は本来の目的から大きく懸け離れている。そう断じざるを得ない。

■与党の責任は重大だ

裏金事件が表面化して半年余りが過ぎた。この間、当事者の自民は裏金の構造的問題に真剣に向き合ってきただろうか。

実態解明の調査、関係者の処分ともに不徹底で、岸田文雄首相の責任は不問にした。一連の過程で首相が党内を統治できなくなっていることもあらわになった。

自民の規正法改正案がまとまったのはどの党よりも遅く、4月下旬だった。このため衆院と参院の審議日程に余裕が持てず、不十分な法案を会期末近くに採決する羽目になった。

もはや自民に自浄作用は期待できない。同じ与党として、成立を後押しした公明の責任も問わなくてはならない。

麻生太郎自民副総裁は最近の講演で「政治活動の基盤維持には一定の資金が必要だ」と主張した。カネをかける政治を維持しようと思えば、こういう発言になる。

裏金事件は本来、カネをかける政治を見直す契機としなければならなかった。「政治にはカネがかかる」と言うばかりでは、いつまでたっても資金集めばかりに考えを巡らすことになる。

これからでもいい。各政党はカネをかけない政治への転換を協議し、それに見合う政治資金の仕組みを作り直すべきだ。

国民は長引く物価高にあえいでいる。その傍らで政治家は裏金をつくり、課税を免れる。ほとんど罪にも問われない。この現状を国民は諦めてはならない。

きのうの党首討論で首相は衆院の解散・総選挙について「さまざまな課題に結果を出していく。それ以外のことは考えていない」と語った。この法改正でよいのか、国民の審判を仰ぐべきだ。

有権者は裏金事件でけじめをつけなかった政党、政治家の対応をしっかりと胸に刻み、1票を投じる判断材料にしたい。

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