相次ぐ治験失敗…大塚ホールディングス「特許の壁」克服戦略の前途多難(重道武司)

大塚HDの樋口達夫CEO(C)共同通信社

【経済ニュースの核心】

製薬大手の大塚製薬を中核とする大塚ホールディングス(HD)がジレンマにさらされている。主力薬に特許切れによるLOE(独占販売期間満了)の危機が迫る一方、次の屋台骨を担うと期待されていた新薬開発が「想定通りに進んでいない」(業界関係者)ためだ。

3100億円──。大塚HDはLOEに伴う減収の影響額をこうはじく。特許切れが迫っているのは持続性抗精神病薬「エビリファイメンテナ」と腎臓病治療薬「ジンアーク」の2製品。前者は今年末、後者は25年にそれぞれ特許切れを迎えるが、両者で計4000億円弱を稼ぎ出す、まさに「ドル箱」(金融筋)だ。

主戦場の米国では特許切れ薬の後釜を狙うジェネリックの普及度合いがことのほか速い。競争は激烈で、先発品はあっという間に駆逐される。市場関係者の間では「本当に3100億円程度の落ち込みで済むのか」と疑問視する向きも少なくない。

こうした「特許の壁(パテントクリフ)」を「コア2」と呼ぶ、すでに販売を開始している2製品と、「ネクスト8」と名付けた新薬候補8品目を加えた10製品の増販などで乗り越えようというのが大塚HDの戦略だ。

うつ病や統合失調症の治療薬「レキサルティ」などを牽引役に5600億円の増収効果を生み出し“壁”を克服していく計画で、28年12月期で売上高2.5兆円(23年12月期比約24%増)の目標も掲げる。

だが次代を託す新薬開発の現況は芳しいとは言い難い。14年に35.39億ドル(当時の為替レートで4200億円)で買収した米アバニアファーマシューティカルズが進めていた認知症の行動障害抑制薬候補「AVP-786」は最終治験に失敗して今年5月に開発断念を発表。23年12月期と24年12月期に各1000億円の減損を計上するハメにも追い込まれた。

住友ファーマとの共同開発で「大型新薬」との呼び声もあった統合失調症治療薬「ウロタロント」も昨年7月に治験失敗が表面化。業績大幅悪化で「研究開発費が尽きた」(事情通)形の住友ファーマは今年3月、案件から手を引いた。大塚HDが単独で開発を続けるものの商業化の行方は見通せない。

大塚HDの財務は今のところ盤石だ。手元資金も3月末で4000億円を超える。市場からは大型のM&Aを催促する声がしきりだ。

(重道武司/経済ジャーナリスト)

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