【香港】シティスーパーが新ブランド[商業] 地域密着の店に、社長が戦略語る

黄竹坑でオープンするシティスーパー・ネイバーフッド。日常的な買い物に利用される店を目指す=20日(NNA撮影)

香港の高級スーパーマーケット、シティスーパーは21日、新ブランド「シティスーパー・ネイバーフッド」の初店舗を香港島南区の香港鉄路(MTR)黄竹坑駅に直結する新しい商業施設「ザ・サウスサイド」にオープンする。市民の生活エリアに立地することに加え、域内経済が停滞している現状を考慮し、従来より手の届きやすい価格帯の商品をそろえた。NNAの取材に応じたオ嘉華(トーマス・ウー、オ=烏におおざと)社長は、地域住民に寄り添ったサービスで不況を乗り越えたい考えを示した。【菅原真央】

新店舗はザ・サウスサイドの3階に位置し、店舗面積は専門店エリアを含めて約2万4,000平方フィート(約2,230平方メートル)。従来店舗は中心部の商業エリアに多く「普段より良いものを食べたい時やホームパーティーの時などに行くスーパーとして認識されていた」(オ氏)。南区はシティスーパーの主な客層である富裕層も多いが、暮らしにより近い立地であることから、毎日の買い物に利用される地域密着型のスーパーを目指す。

見直したのは品ぞろえと価格だ。これまであまり取り扱っていなかった中国本土産の食材を加えることで、手頃な価格の商品を増やした。ただ品質へのこだわりは捨てず「シティスーパーが認めるクオリティーであることが条件」とオ氏は強調する。自宅で簡単に食べられる冷凍食品や、子どものための健康的な菓子にも力を入れた。

日本製品専門コーナー「蔵」には、京都の老舗にルーツを持つコメ専門店の八代目儀兵衛(京都市)が初進出。同社が主催するコンテストで入賞したコメの一部を販売する。社長同士で長い付き合いがあったという成城石井(横浜市)とは初めてコラボレーションを実現し、同社のプライベートブランド(PB)商品を一角に並べた。

オ氏は日本製品の取り扱いについて、安全性や品質に加えて差別化を重視していると説明。久原本家グループ(福岡県久山町)の主力商品「茅乃舎だし」など、競合他社が売っていない商品を数多く扱うようにしているという。

専門店エリアにはカステラ本家福砂屋(長崎市)の常設店を海外で初めて設けた。これまでに何度かポップアップを行い、反応が良かったことから、シティスーパーが運営する形で出店に踏み切った。

シティスーパー・ネイバーフッド専用のウェブサイトも立ち上げた。ランチタイムの速達デリバリーサービス、南区内での3時間以内の配送サービス、地域住民向けのファミリーイベントなど、同店の顧客にフォーカスしたサービスを提供する。

日本製品コーナー「蔵」。成城石井のPB商品を初めて取り扱う=20日(NNA撮影)

■出店場所にこだわり

新店舗は2023年11月に18年ぶりに出店した九龍地区・啓徳(カイタク)の複合施設「エアサイド」店に続く6店舗目となる。エアサイド店は「第2の中央商業地区(CBD)」として開発が進められている啓徳地区の将来性に期待して、ザ・サウスサイド店は南区で唯一の大型ショッピングモールであり、MTR駅直結の立地の良さから出店を決めた。

オ氏は「エアサイド店が久しぶりの出店となったのはシティスーパーに適した場所がなかったため。出店はずっとしたいと思っていた」と振り返りつつ、「プレミアムなスーパーとして、今後もやみくもに出店することはしない」とも強調。次の出店予定は未定とした。

21年11月にはMTR金鐘(アドミラルティー)駅に「エキナカ」業態の「シティスーパー・EKI」をオープンした。シティスーパーの高品質な品ぞろえをコンビニサイズにまとめた業態だが、「新型コロナウイルス禍の中での開業となったため、観光客による交通利用が完全に回復するまでは実験期間中だ」と店舗拡大には慎重な見方を示した。

■北上消費の影響は「間接的」

香港ではこのところ、市民が隣接する中国広東省深センなどへ出かけて消費する「北上消費」が増加し、域内の小売業に大きな影響をもたらしている。

オ氏によると、北上消費に出かける市民は手頃な商品を求めているため、シティスーパーのコアの客層ではない。ただ「たまに来店する層」である可能性はあり、結果的に間接的な影響はあると述べた。

今年は新店を軌道に乗せることに注力しながら、香港経済や小売業の低迷期を乗り切りたい考え。「大きな流れを変えることはできないので、われわれは毎日のサービスや商品のレベルを維持するなど基本的なことを大切にしていきたい」

シティスーパーのオ社長(同社提供)

© 株式会社NNA