学生たちが火星探査機を開発 日本チーム初の世界大会へ「やっと認められた」 アメリカで直面した現実と新たな目標

学生による火星探査機開発チーム「ARES Project」(アレスプロジェクト)が、アメリカで行われた火星探査機の開発を競う世界大会に日本から初めての出場を果たした。4日間にわたった大会では、想像を上回る厳しい環境で探査機の性能が試された。アクシデントが相次ぐ中、日本の若者たちは最後まで戦い、小さくとも偉大な一歩をしるした。

宮城と東京 2チームで開発

「ARES Project」は、ローバーと呼ばれる火星探査機の開発を行う日本初の学生チームだ。ローバーには、ロボットアームと生命分析装置などを搭載する。

東北大学と慶應義塾大学の学生を中心に40人が所属していて、「東北チーム」が機体の設計や製作、「東京チーム」がロボットアームの設計や製作を担当している。普段はリモートで打ち合わせ、直接顔を合わせるのは2カ月に1回から2回行う合同の開発合宿だ。

3人で始めた夢 世界大会出場へ

「ARES Project」が発足したのは2022年3月。学生を対象とした火星探査機の世界大会「University Rover Challenge」(以下URC)への日本勢初出場を目標に3人でスタートした。そのうちの1人で現在リーダーを務めるのが、東北大学大学院で航空宇宙工学を学ぶ阿依ダニシさん(25)。阿依さんは「URC出場で日本の学生たちにローバー開発の意義と面白さを伝えたい。宇宙開発に興味を持つ学生を増やし、日本の技術の底上げに貢献したい」という。

そして2024年、「ARES Project」は15カ国102チームがエントリーした審査を通過し、念願のURCの切符をつかみ取った。参加できるのはわずか38チーム。18年間の歴史を持つ大会だが、日本人のみで構成されたチームが出場を決めたのは初めてだという。1年前は審査を通過できなかった。学生たちは「自分たちが作ったローバーがやっと認められた」と歓喜した。

走行テストは「火星」で⁉

「ARES Project」がローバーの走行テストを行う特別な場所がある。東北大学青葉山キャンパスの一画だ。学生たちはその場所を「火星」と呼んでいる。

砂漠を思わせる場所で、赤土が実際の火星にそっくりなのだ。URCはアメリカ・ユタ州の砂漠で行われるため、テストには絶好の場所だという。URCを2週間後に控えた最後の合宿でも「火星」でローバーが問題なく走行できることを確認した。

4つのミッションで試されるローバー

URCは日本時間の5月30日から6月2日に行われた。4つのミッションが課され、合計点で順位が決まる。内容は以下の通りだ。

■Autonomous Navigation(自動運転)

中継地点やゴール地点に設置されたGPS座標などを頼りに完全自動運転でゴールを目指す。

■Science Mission(科学ミッション)

土や岩石試料を回収し、生命分析装置でサンプル内に各チームの定義に基づいた「生命」が存在するかを分析、プレゼンする。

■Extreme Delivery(極地配達)

指定された地点を巡り、5kg以内の岩石や工具をアームで回収する。

■Equipment Servicing(装置整備)

宇宙飛行士の補助を想定し、模擬宇宙船をローバーでメンテナンスする。

評価された“諦めない姿勢”

メンバー40人のうち23人が渡米して大会に挑んだ。しかし、世界の舞台は甘くなかった。炎天下と砂嵐により、ローバーに電気的なトラブルが発生。予期せぬ動作を繰り返し、タイヤ周りの部品が何度も破損した。

回収した試料の分析を行うこのミッション。途中でタイヤが破損し、得られたデータは少なかった。しかし、限られた写真と事前調査で得た知見から会場の地質学的解釈を説明するなど、最大限の努力を尽くした。さらには、メンバー全員でプレゼンを見守るという団結力も見せた。他のチームにはない姿勢が評価され、受賞に結び付いたという。

次の目標は世界一 挑戦は続く

大会後、阿依さんは来年の目標を次のように語ってくれた。「もう一度世界大会に出場する。そして今度は、少なくとも優勝を目指す」

決して冗談ではない。1年前はローバーを走行させるのもやっとで、搭載したアームでものを持ち上げられるとは思えなかった。それでもこの1年で開発を重ね、初のURC出場にこぎ着けたのだ。壮大な挑戦を続ける学生たちはさらに大きな目標を掲げ、歩みを進めていく。

(大会画像はARES Project提供)

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