「人間の言葉」で

 喜劇役者の古川ロッパが日記に書いている。終戦翌年の大みそかの夜、巡査に車を止められ、免許証を調べられた。「仕事帰りです」と言うと「ご苦労さま。除夜の鐘が鳴っていますよ」と巡査は告げた▲〈日本はよくなる。いゝなあ、巡査が人間のことばを言ふやうになった〉とロッパは記した(晶文社「古川ロッパ昭和日記」)。その翌年、警察制度は「国民の生命、身体、財産の保護」を務めとするよう改められている▲警察のあるべき心を先取りした巡査がいたかと思えば、今なお“弾圧”を務めとした昔を引きずるような警察もある。鹿児島県警は、捜査資料が外に漏れた事件の関係先として、ニュースサイトを運営する男性宅を捜索した▲情報源を割り出すための捜索だったのは想像に難くない。報道側が貫くべき「情報源の秘匿」など知ったことか-と、権力を振り回す横暴という弁(わきま)えはあるか▲押収された証拠に基づいて前の県警生活安全部長が逮捕されたが、その容疑は別の件での情報漏えいだった。たまたま見つけた別件の証拠を誰かの逮捕の材料にする-。論外という自覚はあるか▲〈日本はよくなる〉というロッパの記述には〈一部を除く〉と、ただし書きが要る。捜査の経緯や目的は洗いざらい、〈人間のことば〉で語られなくてはならない。(徹)

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