「一人一人の心 変えられる」カナダ出身パワーズさん 被爆証言発信、英訳で協力

長崎被災協のプロジェクトに協力しているジェームス・パワーズさん=長崎市内

 被爆者の証言を世界に発信する長崎原爆被災者協議会(被災協)のプロジェクトに、英語と日本語が堪能な助っ人が加わった。カナダ出身で長崎市在住の英語講師、ジェームス・パワーズさん(45)。証言の英訳などで協力する。「核兵器がある世界を一気に変えるのは難しい。でも被爆者の物語や経験が一人一人の心を変えることはできる」。20年余り被爆地で暮らし、培ってきた思いだ。

■対話を重視
 古里は太平洋に面したバンクーバー近郊の港町。同じ小学校に日本人が転校してきたことで日本に興味が湧き、地元のビクトリア大で大正・昭和史や日本語を学んだ。大学2年の時、長崎出身の女性と知り合い、婚約。卒業した2003年、長崎市内に移り住んだ。
 その頃、長崎の街並みを稲佐山から初めて眺めた。大学で原爆が「恐ろしい兵器」とは学んでいたが、どこか抽象的だった。だが、かつて原爆に破壊され、復興した街を一望すると感情が揺さぶられた。「とても残酷。二度と繰り返したくはない」。理屈ではなく、そう思った。
 04年から長崎日大中・高(諫早市)で英語を指導。その傍ら、被爆遺構などを外国人旅行客らに案内するガイドを対象に、英語を教える活動を17年から続けている。勉強会を月に1回開き、原爆や平和に関するネーティブの英語表現を教えたり、旅行客と意見交換をする練習をしたり。「対話」を重視し「個人の考えや家族の被爆体験を相手に伝え、共有する手助けをしたい」と考えてきた。

■記憶生かす
 今年1月、被爆証言を世界に発信する被災協のプロジェクトが、英訳ボランティアを募っていることを本紙記事で知った。勉強会の“教材”として活用しながら手伝うことができると考え、被災協に協力を申し出た。
 最初に依頼されたのが、長崎原爆できょうだい5人を失った被爆者、故池田早苗さん(19年死去)の体験が描かれた紙芝居「原爆でみんな死んでいった」の英訳。動画にしてユーチューブで配信するため、英語での朗読も頼まれた。
 池田さんと会ったことはなく、自らが訳した言葉がそのまま世界に発信されて「永遠に聞かれるかも」と思うと緊張した。それでも「残されたメッセージを正確に伝えたい」との一心で慎重に翻訳。朗読でも、感情を込めすぎずに落ち着いた口調を心がけた。
 完成した英語版の紙芝居動画は、先月から被災協のユーチューブアカウントで配信されている。海外では紙芝居自体へのなじみが薄いが、パワーズさんは「AI(人工知能)が作った映像と違い、時間をかけて作られた“人間くさい”紙芝居は、世界の人々の心に伝わる」と信じている。「被爆者の物語は、戦争がいかに危険で悲惨かを私たちに思い起こさせる。私の願いは、この記憶を生かし続けること」。これからも長崎の「記憶」を、世界や未来に届けるサポートを続けていく。

パワーズさんが英訳し、ナレーションも担当した池田早苗さんの紙芝居。被災協のユーチューブアカウントで公開されている

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