社会保障 抜本改革を 本紙取材班 三つの提言 官民一体歩み止めず

 子どもの貧困の実相を報道する下野新聞社「子どもの希望取材班」は20日、三つの提言をまとめた。子どもの貧困対策推進法が施行された2014年の連載当時と比べ、子どもを支える場が増えたことで「貧困の見える化」が進み、より多くの困窮家庭で暮らす子どもと接した。一方でそうした子どもが何かを諦め、意欲を失う様子に変わりはない。生活保護制度への偏見は根強く、困った時に誰もが使えるよう社会保障制度を抜本的に見直す時期を迎えている。子どもの貧困対策の先進地・英国は政権交代などで貧困が悪化しているが、日本は同じ轍(てつ)を踏まないよう官民一体で歩み続けないといけない。

①発見、支援、つながり続ける仕組みの充実を

 貧困など困難を抱える子どもに食事や入浴などの生活支援をし、安心して過ごせる「子どもの居場所」は本紙調査で県内に24カ所あり、10年前の約5倍に増えた。居場所を始まりに信頼できる大人がつながり続けることで自立した若者や、自立できないまでも、歩みを進める姿がある。

 この10年で高校や大学に進学する際の奨学金制度は少しずつ充実し、今後も進展が求められるのは言うまでもない。一方で取材では、困窮から諦める経験を重ねて意欲がわかず、進学する選択のスタートラインにさえ立てない子どもがいた。こうした子どもを支える居場所がある市町は増えたとはいえ、県内で半数に届いておらず充実は急務だ。

 親も訪れ、「親にとっても居場所」といえる場もあり、支援の種類は着実に増えている。子ども食堂なども含め、さまざまな居場所を増やすことできめ細かく親子を包み込み、子どもの成長に応じて誰かがつながり続けられる仕組みづくりを進めたい。

②誰もがアクセスできるよう、安全網の再構築を

 14年の連載では生活保護の外側の支援が手薄であることを指摘し、ワーキングプア(働く貧困層)への所得保障の必要性を訴えた。

 10年後の現在。児童手当などの現金給付は拡充がなされつつあるが、新型コロナウイルス禍や物価高の影響を受け、苦境に立つ子育て家庭は多い。

 かといって「生活」「教育」など、あらゆる側面から困窮者を支える生活保護制度は必要とする人が活用できていない。万策尽きた人を丸ごと支える特性ゆえ「受給者層」への偏見につながり、現に生活が苦しい人に制度へのアクセスを踏みとどまらせている。安全網再構築の議論は必須だ。

 一つの方策はセット型保障の「解体」だ。誰もが少しずつでも活用できるなら、これまで保護基準に達していなかった層も利用できるようになり困窮状態の悪化を防ぐ予防策となる。従来の受給者に対するバッシングの解消も期待できる。

③取り組みを続けない限り子どもの貧困は悪化する認識を

 子どもの貧困対策推進法施行当時よりも、貧困の中にいる子どもの存在は認識されている。行政も支援策などをまとめた計画を策定しだしたが、浮き彫りになっているのは対策を前に進めていく難しさだ。小山市は県内でいち早く貧困撲滅を掲げ、現在も対策を続けているが、道は遠い。

 国を挙げて子どもの貧困率を改善させた英国は、政権交代によって揺り戻しが起き、貧困率が悪化。同国の民間団体は「常に前進していかない限り、対策は後退する」と強調する。

 同法改正を提言した、困窮する子ども・若者支援に取り組む5団体が今年5月、集会を開催。貧困の予防と解消へ具体的な措置を盛り込むことを求め、改正法は今月19日に成立した。

 民間団体には、子どもを身近で支え続けているからこそ見えてくる課題や視点がある。子どもの貧困対策をアップデートしていくために、官と民が連携を密にして取り組み続けたい。

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