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ロンドン塔やタワーブリッジ。観光名所だけでなく、カナリーワーフと呼ばれる金融オフィス街にはきらびやかな高層ビルが立ち並ぶ。
一見、貧しさとは無縁に見えるタワーハムレッツ区は、ロンドンの中で最も子どもの貧困が深刻な地区として知られている。2021年度の子どもの貧困率(世帯所得の中央値の60%未満で暮らす子どもの割合)は47.5%に達した。
児童福祉団体や労働組合など100を超える組織で構成される「エンド・チャイルド・ポバティ」のレイチェル・ウォルターズさん(40)は「この地区は移民、特に黒人が多い。どうしてもマイノリティーは低賃金の職にしか就けないことが多く、貧困に陥ってしまう」と分析する。
その上、ビジネスの中枢シティー・オブ・ロンドンに隣接しているため「家賃の高騰によって生活費が削られ、貧困に追いやられるケースもある」という。
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行政も手をこまねいているわけではない。同区は14年、全ての小学生の学校給食を無償化。高騰する生活費への対策としてロンドン全体に小学生の給食無償化が広がる中、23年9月にはイングランドで初めて無償化の対象を中学生まで拡大した。
「区は積極的に取り組んでいる。だが、もっともっと対策を進めてほしい」。同区内にある「ボウ フードバンク」のジョアンナ・リードさん(42)が訴える。
英国の子どもの貧困率が上昇に転じた14年に同フードバンクは開設した。当初は年間約40世帯を支援していたが、新型コロナウイルスや物価高の影響で支援対象は現在、千世帯にまで膨れ上がった。子どもが3人以上いる貧困家庭が多く、大家族ほど頻繁かつ長期的に利用している。
リードさんは「お金持ちと貧しい家庭が隣同士に住んでいることもあるのが、タワーハムレッツの特色。一律の支援でなく、子どもの多い家庭をどう支えるのかも重要だ」と指摘する。
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5月下旬、午前。区内にある学校跡地で同フードバンクの配布会が開かれた。
この日は祝日。普段より少ないものの186世帯が訪れた。スタッフは牛乳やカップ麺などの食品やシャンプーなどの生活用品を手渡すのに加え、貧困家庭の生活支援のために給付金などについてもアドバイスした。運営は、登録者数が千人を超える地域のボランティアが支えている。
リードさんは言う。
「はじめは5年も続ければ必要がなくなると思っていた」
しかし現実は真逆だった。社会保障費から子どもの貧困対策費を削る国の施策を背景に、区の対策をはるかに上回る速度でフードバンクの需要は高まり続けている。
「ボウ フードバンク」は今年、設立10年を迎える。