「兵庫五国」の窯の82件がずらり 高瀨正義氏から受贈した多彩なやきものを紹介 兵庫陶芸美術館

神戸絵付(湊光)(こうべえつけ そうこう) 「色絵金彩風景図皿」(いろえきんさいふうけいずさら) 昭和時代(20世紀)

“兵庫五国”の各地で作られた多彩なやきものを紹介する特別展「受贈記念 高瀨正義コレクション 兵庫のやきもの探訪―五国の窯場を巡る―」が兵庫陶芸美術館(丹波篠山市)で開かれている。専門家が分かりやすく解説するリモート・ミュージアム・トークの今回の担当は、同館学芸員の萩原英子さん。代表的な作品の特徴や見どころなどについて教えてもらう。

【写真】物語のワンシーンのよう。山里の庵が立体的に表現された白磁の急須

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兵庫陶芸美術館では、2020~23年にかけて、兵庫県加西市に生まれた陶磁器愛好家、高瀨正義氏(1940~)のコレクション82件を受贈しました。これを記念して、特別展「受贈記念 高瀨正義コレクション 兵庫のやきもの探訪-五国の窯場を巡る-」を開催し、高瀨氏が独自の審美眼で蒐集(しゅうしゅう)した作品を広く紹介するとともに、県内各地で生み出された変化に富んだやきものに親しんでいただきます。

高瀨氏は、サツキ盆栽を楽しむために1959(昭和34)年から華道御室宮容真御流(かどうおむろみやようしんごりゅう)を学び、また茶道もたしなむ中で、やきものに関心を持つようになりました。同年、神戸市で入手した丹波焼の壺を契機として、兵庫県のやきものに魅せられ、約65年にわたる歳月をかけて、摂津・播磨・但馬・丹波・淡路からなる兵庫五国の窯場を網羅すべく積極的に作品を収集しました。

高瀨氏のコレクションは、江戸時代後期に創業を開始した三田焼(三田市)や珉平焼(南あわじ市)、出石焼(豊岡市)に加え、明治時代以降に生産が始まった打出焼(芦屋市)や神戸絵付(神戸市)、篠山焼(丹波篠山市)など、近現代の作品が中心です。高瀨氏は、馴染みの古美術店や各地で開催される陶器市に足を運び、花器や茶器、食器など多種多様なやきものを幅広く収集し、コレクションを充実させてきました。

最初にご紹介するのは、『神戸絵付(湊光)(こうべえつけ そうこう) 「色絵金彩風景図皿」(いろえきんさいふうけいずさら)』。日本画家・川合玉堂(1873~1957)の絵画から図様や構図を引用して器面を装飾した飾皿です。粘り気のある釉薬を用いて流れる水を巧みに表現し、白色の花を付けた木々に雀が立ち止まる温和な風景が表現されています。日本の原風景を叙情的に描きながら金彩を多用して色鮮やかに絵付けしています。高台内に金彩で「Sōkō China/湊光/Hand-Painted」の銘が施されています。

次は『出石(盈進社)(いずし えいしんしゃ) 「白磁貼花山水図急須」(はくじちょうかさんすいずきゅうす)』です。手捻りで成形した後、器面に磁土を貼り付けて、ヘラなどの工具で山里の庵を立体的に表現しています。さらに庵に重なるように太くうねる木の幹を貼り付けて生い茂る木の葉をヘラの先端を押しつけて巧みに表わしています。白磁の世界に人里離れた山間の静かな雰囲気が映し出されています。底部には「盈進社」の印銘が捺されています。

最後は『珉平(淡陶社)(みんぺい だんとうしゃ) 「色絵金彩秋草図茶碗」(いろえきんさいあきくさずちゃわん)』。江戸時代後期に作られた珉平焼にも側面に秋草を描いた茶碗が作られていますが、葉の描き方などから本作は淡陶社で製作された茶碗です。正面に菊や桔梗、女郎花などの秋草を華やかに描き、背面には控えめに撫子や葛などを描いています。高台内に「珉平」の印銘が捺されています。

展覧会の会場内で「兵庫の窯場すごろく」を配布しています。五国の窯場を巡る旅気分で作品を見ていただき、自宅ではすごろくを楽しんでもらえたら幸いです。

(兵庫陶芸美術館 学芸員・萩原英子)

【※所蔵はすべて兵庫陶芸美術館(高瀨正義コレクション)】

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