ストレスフリーな牛のミルク 牛乳消費減少のなか、新技術取り入れチャレンジ続ける京都・綾部の酪農家

海外から輸入される牛の飼料(エサ)や資材の価格が高止まりし、国内の酪農家の経営を維持していくために、2022年、23年と、他の食品同様に牛乳・乳製品も値上げされました。そんな中、国内の飲用牛乳の消費量は毎年少しずつ減少傾向が続いているそうです。酪農家の今を取材しました。

☆☆☆☆☆

【画像】日本の酪農の未来を照らす可能性「搾乳ロボット」

牛が自由に歩き回り元気に飼育されている、京都府綾部市の村上牧場。同牧場代表の村上知行さんによると、牧場の始まりは1955(昭和30)年。村上さんの父が、綾部市内の牛舎に2頭の搾乳牛を飼って酪農経営を開始したことでした。

村上さんは酪農家の後継者として大学で畜産を学び、大学卒業後はJAに勤務していました。JA職員として牛の人工授精の業務で地域の酪農家を巡回する中では、若い酪農家が頑張っている姿を見て「同じ酪農家の息子としてこれでよいのか」と思い悩んだことも。そして2014(平成26)年、51歳の時にJAを辞めて父の酪農事業を継承しました。

その後、牧場の将来を考え、廃業した酪農家のつなぎ牛舎を購入。2017(平成29)年には、国の補助事業を活用して「フリーストール牛舎」に改築し、牧場を移転しました。

フリーストール牛舎とは、牛をロープなどでつなぐことなく、自由に歩き回れるスペースを持つ牛舎のことです。村上さんは、牛がストレスなく自由に過ごせる環境作りを心掛けているといい、「人間の都合ではなく、牛の好きなようにさせてやりたい」と話します。

現在村上さんは、妻と息子に手伝ってもらいながら、約100頭の乳牛を搾乳ロボットで飼養管理。牛舎では、生後2か月の子牛たちも元気に育っています。

省力化のためにと、新しい技術も取り入れました。餌寄せや搾乳のためのロボットのほか、ICT(情報通信技術)を活用した牛舎内の監視システムを導入し、いつどこにいても、牛や牛舎内の状況を把握できるようにしています。搾乳ロボットは、関西ではまだ設置している牧場は少ないそう。

同牧場の牛は、行列してロボットに入るのを待ちます。中は牛1頭がちょうど入れる部屋のような仕様。中に用意された餌を食べている間に、ロボットセンサーが牛の乳房を感知し、搾乳機が自動でセットされてミルクを搾っていきます。牛たちは、ここに入れば餌を食べられて、搾乳もしてもらえることを分かっているのだといいます。

搾乳後、牛は自分で外に出ていき、次に待っている牛が自ら入っていきます。最初は前から引っ張り、後ろから押さなければ入らないケースが多いものの、早い牛だと1日で身に付くのだそうです。

「酪農の仕事で一番大変なのが朝晩の搾乳作業。24時間休むことなく頑張ってくれるロボットの導入により省力化できたことで、約100頭の乳牛を飼えています」と村上さんは話します。

しかし、まだまだ苦労もあります。糞尿の堆肥化もその一つです。堆肥は、村上さん自身の畑や近所の農家で使用しているそうですが、綾部市のある日本海側は「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど悪天候の日が多く、堆肥が乾燥しにくいことが難点といいます。

一方で、明るい話題も。

良質なたんぱく質やビタミン類など多くの栄養素がバランスよく含まれ、コップ1杯(約200ml)で1日に必要なカルシウム量の約3分の1を摂ることができる牛乳(※1)。綾部市では小中学校の給食に、そんな地元の牛乳が用いられているのです。

また、牛乳を適度な運動(高齢者にとってはややきつい運動)のあとに飲むと、汗のかきやすさや血管の開きやすさが向上し、体温調節効果のアップが期待できるとの研究結果もあります。村上さんは自身も地元の牛乳で育ったといい、「子どもたちにたくさん牛乳を飲んでほしい」と笑顔で話しました。

現在は、牧場の牛乳を使ったプリンの販売を目指して試行錯誤中という村上さん。今後の展望をこう語りました。

「中央酪農会議(全国の酪農家による生産者団体)が取り組んでいる“酪農教育ファーム”と呼ばれる活動があり、私の牧場もその認証を受けています。酪農を通じて『食や仕事、命の大切さ』を学んでもらい、酪農をやってみたいと思う人が一人でも出てきたら……」。

折しも6月は“牛乳月間”。農林水産省は、酪農乳業界を横断する組織ともに、日本の牛乳を救う“プラスワンプロジェクト”と銘打って「毎日牛乳をもう(モ~)1杯」と提唱しています。安全・安心・新鮮で高品質な国産100%の牛乳を飲み続けられるよう、日常の暮らしの中で牛乳を飲むことが、日本の酪農を応援し、守ることにつながるのではないでしょうか。

※1 一日に必要なカルシウム摂取量は年齢や性別により異なる。

※ラジオ関西『Clip』より

【取材協力】一般社団法人Jミルク、近畿生乳販連
【参考資料】『牛乳に期待される熱中症対策 2013年度版 ー暑さに負けないからだづくりに有効な牛乳習慣ー』(監修:信州大学医学系研究科 能勢博教授、発行:一般社団法人Jミルク)

© 株式会社ラジオ関西