「体質が変わるとは思えない」鹿児島県警隠ぺい疑惑、元道警が指摘する「“告発者”逮捕への疑問」と「組織の腐敗」

県議会で不祥事について説明する野川明輝県警本部長(写真・時事通信)

警察の内部文書を外部に漏えいしたとして逮捕・送検された鹿児島県警前生活安全部長の本田尚志被告が、6月21日、国家公務員法違反の罪で起訴された。

本田被告が「闇をあばいてください」と大書し、札幌在住のライター・小笠原淳氏に送った文書には4件の県警内部で隠蔽された疑いのある事案が記されていた。

そのうちの1件は、枕崎署員による盗撮。枕崎市内の公衆トイレで女性をスマートフォンで撮影したとされる署員について、本田被告が捜査するように進言したが、県警トップの野川明輝本部長は「泳がせよう」とし、本部長指揮の印鑑を押さなかったという。事件は昨年12月に発生していたにもかかわらず、情報漏えい問題が発覚した5月に県警は署員を逮捕した。

起訴について、元北海道警生活安全特別捜査隊班長の稲葉圭昭氏は、「本人も望むところだ」と指摘する。

「仮に不起訴や起訴猶予になると、それで事件が終わりうやむやになる。本人は腹を決めて文書をライターに送った。世間に組織の闇を晒すことへの覚悟が窺える。裁判できちんと白黒つけたほうがいいし、そこで公益通報に当たるかどうかも判断されるだろう。あのクラスの人が腹を括ってやったこと。それ自体は素晴らしいことです」

稲葉氏は現役時代、100丁を超える拳銃を押収し「銃対のエース」と呼ばれたが、やがて違法捜査と覚醒剤密売に手を染める。2002年、犯罪が発覚し覚せい剤取締法と銃刀法違反で有罪判決を受けた「稲葉事件」は、10数名の道警幹部の処分と自殺者まで出し、全国の警察組織を震撼させた。9年の服役を経て著わした自叙伝は、2016年の映画『日本で一番悪い奴ら』の原作にもなった。現在は札幌で探偵事務所と惣菜店を営み、また薬物依存者に対するアドバイザーの活動を続けている稲葉氏は、こうした鹿児島県警の対応を指弾する。

「盗撮事件なのに、本部長はこの署員を『泳がせよう』と指示したという。これはおかしい。そもそも容疑者を『泳がせる』という言葉は、共犯者を突き止めたり、さらに大きな事件に繋がる可能性があるときに、敢えて逮捕しない場合に使う言葉です。この程度の事件で泳がす必要なんてない。本部長がこうした言葉を使っていたとするなら、いかに現場を知らないのかが露呈している。これは泳がせるのではなく、見逃せと言っているようなものです」

そもそも本田容疑者を逮捕したことに疑問符がつくという。

「生活安全部長といえば、県警のナンバー3ぐらいの人。彼は正義感を持って内部文書を送っているはずです。そして証拠隠滅の恐れもない。それでも逮捕したのは、鹿児島県警がかなり慌てていたということ。生活安全部長を逮捕するのは、野川本部長の判断だったのか、警察庁にお伺いを立てて逮捕したのかはわかりません。とにかく口封じをしなければと思ったのでしょう」

鹿児島県警は不祥事が相次ぎ、2023年10月以降で逮捕された現職警察官は4人にのぼる。枕崎署員もそのうちの1人だ。そのため、本部長自らの保身や、組織防衛の意識が働いているのではないかと稲葉氏は指摘する。

「野川本部長はまだ53歳。今後本庁に戻ってまだ先のある人です。だから不祥事が相次ぐと、出世に響くでしょう。しかも警察は妙な組織防衛の意識があって、身内の闇を隠ぺいしようとする。私が道警にいた頃も、『警察の常識、世間の非常識』と言われていました。今は警察組織を守るより、自分だけを守る保身に走っているのではないか。組織の腐敗がどんどん進んでいると言わざるを得ません」

稲葉氏は、今回の元生活安全部長の告発で鹿児島県警が変わるのかは怪しいとみる。

「元生活安全部長は、黙っていれば天下り先はいろいろあっただろうし、安泰だっただろう。それを投げ打って告発したことは、正義感だったかもしれないし、本部長との確執があったのかもしれない。キャリアとノンキャリアの対立というのは永遠のテーマ。いずれにしても覚悟の行動だった。しかし、鹿児島県警は隠ぺいを否認するしかないだろう。残念ながら、県警の体質が変わるとは思えない」

野川本部長は21日に会見を開き、「私が(不祥事の)隠ぺいを指示した事実はない」と改めて否定した。

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