小高の養蚕復活へ「可能性は無限」 埼玉から移住し会社設立

「福島からシルクロードをつくりたい」と話す平岡さん

 埼玉県から南相馬市小高区に移り住んだ平岡雅康さん(46)が「福島シルクラボ株式会社」を設立し、今月から養蚕を本格的に開始した。地元産の桑を与えた蚕のシルクを原料にせっけんを製造、事業拡大や全国への発信を見据える。かつて小高で盛んだった養蚕を復活させ復興につなげる考えで、平岡さんは「福島からシルクロードをつくりたい」と意気込んでいる。

 平岡さんは古着好きが高じて絹に興味を持ち、養蚕にも関心を抱くようになった。「養蚕農家が減っている。何とかしなければいけない」。本業とする腕時計製造の傍ら、2021年から養蚕農家の指導を受け、埼玉県でシルクを原料にしたせっけんの販売を開始。2年前に小高に腕時計会社を移した以降も、同様に養蚕活動を続けてきた。平岡さんによると、シルクに含まれる成分が美容に効果的という。

 これまでは蚕に人工飼料を与えていたが、桑を使った伝統的な養蚕に取り組もうと1月に新会社を設立。田村市から蚕の幼虫を取り寄せて今月、時計を製造している小高区飯崎の工房の一室で養蚕を始めた。地元NPO法人の助言を受けながら、エアコンを使って成長に合った温度に調整したり、石灰による消毒、ふんの清掃など、苦心しながら大切に育てている。

 24度前後に暖められた室内には、約5000匹の蚕が「かしゃかしゃ」と桑を食べる音が響く。平岡さんは「日に日に成長するお蚕さまはかわいい」と笑顔。蚕の繭は県外の業者に持ち込まれてせっけんとなり、夏にもオンラインなどで販売する方針だ。値段はSサイズ(12グラム)660円などを予定。

 南相馬市博物館によると、小高区では幕末から昭和初期にかけて養蚕が盛んに行われていた。昭和30年代後半は700戸以上の養蚕農家があったが、現在はゼロとなっている。平岡さんは「昔の小高の地図を見ると桑畑だらけだ。復活させたい」と力を込める。今後は桑畑や製糸施設を整備し、寝具などに使う真綿の開発も視野に入れる。「可能性は無限大だ」。地域を盛り上げようと、平岡さんは白く輝く繭に夢を託す。(佐藤健太)

 繭生産量、全国3位

 業界団体の大日本蚕糸会によると、本県の昨年の繭生産量は約6.6トンと群馬県、栃木県に続き全国3位。県のまとめでは、養蚕農家戸数は9万3150戸(1926年)をピークに、化学繊維の普及や和装需要の低下などにより年々減少し、昨年には二本松市や川俣町などの12戸のみとなっている。

© 福島民友新聞株式会社