「過酷、体力的にも精神的にも」長野県出身初の女子ボートレーサー誕生 3度目の挑戦で倍率25倍の難関突破

長野県出身者初の女子ボートレーサーが誕生した。3度目の挑戦で倍率約25倍の難関を突破してスピードと駆け引きが要求される厳しい世界に飛び込んだ中川村出身の井沢聖奈選手。緊張のデビュー戦を密着取材した。

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2歳の頃に初めてみて「かっこいい」

水上を時速80キロで駆け抜け、波しぶきをあげて激しくターン。一瞬の判断と高度なテクニックが勝敗を決めるボートレース。

約1600人のレーサーが各地でしのぎを削っている。

2024年、その世界に飛び込んだ一人の女子選手がいる。中川村出身の井沢聖奈さん(20)。

長野県出身者初の女子ボートレーサーだ。

井沢聖奈選手(20):
「やっぱり不安はあるんですけど、長野県初の女子レーサーとして頑張ります」

5月25日、愛知県蒲郡市の「ボートレース蒲郡」で緊張のデビュー戦を迎えた。

井沢さんがボートレースを初めて見たのは2歳のころ。

井沢聖奈選手(20):
「小さい頃に父にボートレース場に連れて行ってもらって、ボートレースという職業をそもそも知って、その時に小さいながらにモーターの音とかガソリンの匂いとか、いろいろと感動して、かっこいいなって思ってました」

レースの収益の一部が社会福祉に

レース場に連れられていく度に強まっていった憧れ。小学5年の時にレースの収益の一部が社会福祉に役立てられていることも知り、ボートレーサーになろうと決心する。

しかしー

井沢聖奈選手(20):
「全然、運動音痴で実は泳ぐのも得意じゃなくて、それでずっと音楽をやってました」

運動が苦手で、中学校・高校は吹奏楽部に。それでもボートレースに役立つのではと思い、高校は飯田OIDE長姫高校の電気電子工学科に進んだ。

3度目の挑戦で倍率約25倍の難関突破

レーサーになるにはまず「養成所」の入所試験に合格しなければならない。井沢さんは高校3年の冬に挑んだが、不合格。

井沢聖奈選手(20):
「本当に悔しくて、悲しいというより悔しいという気持ちが大きくて、どうしてもなりたいという気持ちがどんどん大きくなっていきました」

その後、自分を追いこもうと親の反対を押し切って単身、九州・宮崎へ。体を鍛え、2022年冬、3度目の挑戦で倍率約25倍の難関を突破した。

養成所では1年間、操縦や整備などの基礎を教え込まれた。外部とは隔離された集団生活。携帯電話は使用禁止だった。厳しい環境と訓練で同期の半数以上はリタイアしたと言う。

井沢聖奈選手(20):
「過酷です。体力的にも精神的にも。吹奏楽部だからって負けたくないなというのがずっとありました。週に1回くらい手紙とかが送られてきて、それで両親とか友達から『応援してるよ』とか言われたり、それに励まされてました」

趣味「河童探し」人生で4回遭遇!?

デビュー戦に向けて練習に励む井沢さん。ボートレース場は全国に24カ所あり、18都府県に選手が所属する支部がある。

養成所を出た井沢さんは愛知支部の所属に。デビュー戦は父に連れて行ってもらった蒲郡のレース場となった。

強い意志と実行力を感じさせる井沢さんだがー。

井沢聖奈選手(20):
「ちょうど河童もいましたし、いい機会だったなって」

記者:
「河童というのは何なんですか?」

井沢聖奈選手(20):
「何っていうのは、もうそのままです。河童がいたよって」

井沢さんの趣味は「河童探し」。人生で4回遭遇したことがあるという。こうした「ピュア」な一面も井沢さんの良さなのかもしれない。

記者:
「川にいた『人間』じゃなくて?」

井沢聖奈選手(20):
「じゃないんですよ、真冬ですよ?川に入ってるのおかしいじゃないですか、それは『河童』でした」

緊張のデビュー戦

5月25日、ボートレース蒲郡。

デビュー戦当日。

宿舎から走って整備場に集まる若手選手たち。自分が使うモーターを手早く用意し、先輩レーサーのモーターも一緒に運ぶ。

こうした準備は新人・若手の仕事。

前日の抽選によって決まったボートとモーターを取り付け、出走できる状態にする。

ここからは全員がライバル。井沢さんも真剣な表情だ。

取り付けたら試運転をする。

井沢聖奈選手(20):
「もう気持ち悪いです。緊張しすぎて何していいかわからないくらい」

先輩たちは部品の点検やプロペラの調整などをするが、経験が浅い井沢さんたちはすぐに水上に出て練習。

井沢聖奈選手(20):
「すごく緊張してるんですけど、うれしいです。楽しみたいと思います。自分の、いっぱいレースに参加しているところを見てほしい」

幼なじみが励まし続け

一方ー。

幼なじみ・矢沢乃莉子さん:
「『井沢聖奈』って書いてある!はー、うれしい」

今は山梨県の大学に通っているが、この日、電車を乗り継ぎ6時間かけて応援に駆け付けた。

養成所に入った井沢さんを手紙で励ましてきた一人だ。

幼なじみ・矢沢乃莉子さん:
「手紙にも『今、これ泣きながら書いてます』とか書いてて、つらいなって思ってました。養成所に入れてる時点ですごいことだから、胸張って頑張ってほしいと言いました。楽しみにしてる人たくさんいるので、思い切り走ってほしい」

必死に食い下がる デビュー戦の結果は

井沢さんのデビューはこの日の第4レース。

さあ、いよいよ本番。

6人で競うボートレース。井沢さん以外は男子選手だ。体力や体重の男女差は決定的な要素ではなく、男女関係なく競うのがボートレースの特徴。

(実況)
「デビュー戦を迎える6号艇、井沢聖奈が6コースです。小さなころ訪れた、この蒲郡で見たボートレースのエンジン音や迫力に魅了され、収益が社会貢献にもつながる世界と選んだボートレーサーでもあります。河童を探すのが趣味?不思議ちゃんキャラクターでもありますが、水上では伝説の女子レーサーを目指してほしい存在でもあります」

ボートレースは助走スタート。井沢選手、やや出遅れた。

必死に食い下がる。

ボートレースは先行するボートが圧倒的に有利。

徐々に離されていく。

デビュー戦は「6着」。

デビュー戦はほろ苦い結果に。

ただ、無事故で完走し、安どの表情だ。

井沢聖奈選手(20):
「とりあえずホッとしてます、安心してます。まだまだ技量が足りないなという部分があるので、努力していきたいんですけど、やっぱりボートレース楽しいなって思いました」

家族「はじまったばかり」

親友の矢沢さんは―。

幼なじみ・矢沢乃莉子さん:
「ほれ直しました。伝説のボートレーサーになってほしいです」

実はこの日、井沢さんがレーサーになるきっかけをつくった父・寛さんら家族もレースを見守っていた。

父・寛さん:
「無事にゴールしてくれと祈りながら見ていました。頑張ったね、おめでとう、という言葉ではなく、まだまだ始まったばかりだよと伝えたい」

幼い頃の夢を叶えた井沢選手。次の「夢」は?

井沢聖奈選手(20):
「SGに出られる、『レーサーと言ったら?』で名前が出る選手になりたいです。お客さんからの声援・応援があると励みになるので、いっぱい応援してください」

最高峰の選手たちが競うレースを目指して。井沢さんの挑戦は始まったばかりだ。

(長野放送)

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