『イップス』最終話 倒叙型を逆手に取ったオシャレな結末と「ミステリー沼」の話

バカリズムがイップスで捜査ができなくなった刑事を、篠原涼子がイップスで小説が書けなくなったミステリー作家を演じてきたドラマ『イップス』(フジテレビ系)も最終話。

今回は、2人がイップスに陥るきっかけとなった8年前の殺人事件と、それに続く新たな事件が描かれました。

オシャレな着地だったなと思います。倒叙型を採用したミステリーとして、とってもオシャレな最終回。振り返りましょう。

■ホワイダニットに見せかけて

8年前、黒羽ミコ(篠原)の小説『歪な十字架』に出てくる被害者と同姓同名の女性が殺害されました。この事件の捜査にあたった刑事・森野(バカリズム)は異口治(モロ師岡)という人物を被疑者として逮捕しましたが、のちに冤罪であることを確信し、苦悩。

その事件がきっかけでミコさんは小説を書けなくなり、森野は捜査ができなくなった。

今回、8年前の事件と同様に、『歪な十字架』に登場する人物と同姓同名の女性が殺されます。事件前にその女性と接触していたのは、ミコさんの弟で弁護士の慧くん(染谷将太)。事件後、死体を見下ろし、現場から逃走する慧くんの姿が描かれました。

このドラマは、先に犯人の犯行シーンを描いて、その後に森野とミコさんが犯人を推理していくという“倒叙型”のスタイルが採られてきました。その多くは、いわゆる「アリバイ崩し」に費やされています。「どうやって殺したのか」「どうやってアリバイを作ったのか」「どうやって死体を隠したのか」つまりは「ハウダニット(How done it)」と呼ばれるジャンルのパターンに当てはめてきた。

倒叙型によるハウダニット。それが『イップス』におけるミステリーの型だったわけですが、今回はシンプルに胸を刺されて死んでいる。冒頭、慧くんが殺したかのような描写がある。

なぜ、慧くんが姉の小説である『歪な十字架』を模倣した殺人を犯しているのか。最終回にきて、倒叙型でありながら「ホワイダニット(Why done it)」に切り替えてきた。このドラマは倒叙なんだよな、と思って見ていた視聴者に、まずそういう錯誤を与えます。同じ倒叙でも、ハウからホワイに変えてきた。オシャレじゃん。

その後、これまで倒叙だったことをフリにして、別に真犯人を用意している。慧くん、やっぱ殺してなかった。森野も、最初からそれはわかってた。

真犯人は、いつも森野とバディを組んでいた部下の刑事・樋口(矢本悠馬)でした。

いわゆる、ミステリー用語でいうところの「犯人は近くにいる」というやつだ。オシャレだ。

そしてその動機も、独特なものでした。説得力がありながら、慧くんならずとも思わず「狂ってる……」と言いたくなる身勝手な動機。

「狂ってる……」って、言いたいよなぁ。そんな理由で人を殺すなんて。言いたいんですよ。90年代の下北沢カルチャー周辺をウロウロして人間なら、「犯人は近くにいる」をやりたくなる。殺人の動機に「狂ってる……」って言いたくなる。そういう世界観、めちゃくちゃわかる。

オークラさん、それはわかるんだ。

■総じて“ごっこ感”だった

『イップス』というドラマは、ミステリーとしての謎解きの出来にバラつきがあるということはずっと書いてきました。3人の脚本家がいて、森ハヤシさんの担当回だけ突出して出来がいい。逆に言うと、森さん以外の2人の担当回は、謎解きを楽しもうと思ったらちょっと見てらんないくらいの出来でした。

第1話ではトリンドル玲奈が誰にも見られずに7.5トンの純水を薬局からサウナ施設の屋上に運んだことになっていた。第2話では、被害者が酒に酔ってゲロを吐くタイミングを犯人側が完全に予見していたかのようなトリックだった。トリックの甘さは枚挙にいとまがないし、計画殺人と衝動殺人の区別もついてない。司法制度や裁判のシステムについても誤解や強引な踏み抜きがある。

なんかね、本当にこういう言い方はしたくないんだけど、大人たちが寄ってたかって「ミステリーごっこ」をしていたように見えていたんです。プロ野球だと思ってテレビをつけたら、草野球をやってる。いかにも不器用なゲッツーを取って、まるで自分たちが荒木と井端である、みたいな顔をしている。そんな感じ。

だったら、最初から草野球のつもりで見ればよかったんですけどね。バカリズムもオークラさんも好きだし、篠原涼子も好きだし、トリンドルもアンミカもラランド・ニシダも見てて楽しかったのは楽しかったし、こっちの見方が間違えていたというのも、確かにある。

ミステリーって難しいですよね。どこまでやればミステリーとして成立するかって、それこそたくさんのミステリーに触れて向き合ってこなければわからないところだと思う。それは、人生をかけてミステリーという沼に傾倒して、ようやく拾い上げてこられるものなんだと思う。

そんなことを感じた『イップス』でした。おしまい。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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